第106話 進軍

宴を終えた後、軍を編成して青州まで来ていた。

「陳宮、苦労をかける。」

作戦を伝えに郭嘉がやって来ていたのだが、何処か顔色が悪い。

「俺の苦労は良いが、郭嘉その顔は大丈夫なのか?」

「息子がしでかした事を考えると寝てもいられん、それで作戦を伝えたいがいいか?」

「ちゃんと寝ろと言いたいが・・・

まずは作戦を聞こう。」

「なに、作戦と言っても簡単だ、袁紹軍の天敵と言えるお前の名を使わせてもらうだけだ。

お前が軍を率いて黄河を渡る素振りをすれば袁紹はお前に注視するしかない。

その隙を狙って黎陽を落とす。」

「そんなに簡単にいくのか?」

「そこは任せてくれ、総大将は夏侯惇となっているがその実、曹操軍の勢力を上げての攻城戦となる、まあ、陳宮にはなるべく袁紹を引き止めて欲しいものだが。」

「俺達で袁紹を殺ってもいいのか?」

話を聞いていた張遼が横から口を挟んでくる。


「多分無理だと思うが・・・それは止めてもらいたい、この戦は夏侯惇に手柄を立てさせるのが目的だ。

陳宮も知っているだろ、今曹操軍内は動揺していることを・・・」

郭嘉の言葉は郭嘉自身の事も含まれている、ただの使者に自身が来たのも罪悪感からなのだろう。


「わかった、ただ戦は水物だ、殺らねばならぬ時が来たらその時は討ち破る。」

「その時はまず来ないと思うが・・・いや、来ないでもらわないと困るな。」

郭嘉は疲れた笑いを見せて帰って行くのであった。


俺は徐盛に船を用意させつつ、軍を大軍に見せかける為にカカシを立て、旗を増やし、黄河に布陣させていく、それはあたかも袁紹を討伐する為に大軍で決戦を挑むような動きであった。


陳宮が動いた。

その報告は袁紹の元に即座に届けられる。

袁紹にとっても官途の戦いで敗れたのは陳宮の存在ということに気付いていた、その者が再び攻め込んで来るというのだ、必要以上に警戒される。


「平原に軍を集めよ!十万で迎え討つ!」

「お待ち下さい、袁紹様。

今十万もうごかされるとここ鄴が空になってしまいます、どうかご再考を。」

沮授が袁紹に考え直すように進言するのが・・・

「沮授殿、陳宮は僅かな手勢で黎陽を落とし、官途の戦いで突撃をしてくるような危険人物、そのようぬ者を相手に兵数を減らして対応できるとお思いか!

我軍には顔良殿、文醜殿はおられぬのだぞ!」

郭図は沮授に反論をぶつける。

顔良、文醜がいれば力技での戦も可能だったのだが、陳宮の武勇伝を考えれば他の将では厳しい物を感じる。

ならば兵数であたるのが妥当なのだろう。


周りの諸将も納得している。


「ですがここ鄴を落とされれば元も子もない!」

「沮授殿は心配性ですな、この鄴は囲まれたとて容易く落ちる城ではない、それより恐ろしいのは何をしてくるかわからぬ陳宮だ。」

諸将達には自国内で討たれた田豊を思う。

陳宮が黄河を渡ってくる恐ろしさは皆が共有していたのだった。


「沮授、私は郭図の意見を採用する、心配なら鄴に残り高幹を助けて守備に付くと良い。」

「袁紹様!」

沮授の進言が採用される事は無かった、袁紹は十万の大軍を指揮して平原に向かったのち、黄河を挟んで陳宮軍と対峙することになるのだった。

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