第107話 対峙中

黄河を挟み睨み合うが互いに仕掛けようも無い、船で近づこうにも船の数から上陸しても多勢に無勢、無駄に兵を減らすだけである。

俺達は命令通り、袁紹軍を引き付けて置けばいいのだ。


「くそっ!面白くない!」

成廉は睨み合いの最中グチをこぼす。

こんな睨み合いをしても手柄など手に入らない、陸が続いていれば偵察と称して馬で軽くけしかけるのだが、船を使わねばならぬ以上それも出来ない、不満ばかりが溜まっていく。

「落ち着け、成廉。」

張遼は不満を察して成廉の所に来ていた。

「落ち着けるか!許昌じゃ姫さんが夏侯惇の息子に嫁ぐとか言う噂が広まっているんだろ?」

成廉の耳にも入るぐらい曹清の噂は届いて来ていた、徐州では派手なお披露目をしたことも有り、曹清の噂は住民とっても信じられない物ではあるが、同時に夏侯楙のやらかした話も広まっており、夏侯惇に対しての政治的判断じゃないのかという噂も相まって失望とともに広まっていたのだ。


「まあ誰が流しているのかは知らないが、面白くはないよな。」

魏越も話が聞こえたので会話に入ってくる。

「まあ、落ち着け二人共。」

「なんでお前は落ち着いていられるんだ!

陳宮が可哀想じゃないのか!」

呂希を夏侯恩に取られ、今また曹清まで奪われると合っては成廉としては憤りを感じていた。


「既に手はうってある、

まず貂蝉様、呂宮様を許昌より下邳にお連れすることに成功した。」

「「なに!!いつの間に!」」

成廉、魏越は驚きを隠せない。

陳宮にとって人質になりかねない二人を下邳に連れ出せた事は非常に大きい。

「俺の屋敷で暮らしていたからな、必要な者として呼び寄せたのだが、思ったより警戒されていなかった。

どうやら曹操軍も命令系統が混乱しているようだな、貂蝉を見張るのに陳宮の屋敷を探っているようだった。」

曹操が降していた命令は陳宮の屋敷の監視であった。

曹操自身、曹清と陳宮が結ばれた事により、安心もあり、貂蝉の人質としての価値を落としていたのも影響していた。

屋敷からロクに出ることの無かった貂蝉の見張りの質は低くなっており、張遼が連れ出す事に手間は無かった。


既に張遼の手の者が丁重に下邳に案内している最中なのだ。

「やるな!張遼!」

「これで俺達に弱点は無い、下手に出る必要が無いのだからな。」

張遼は大きく笑う、これにより陳宮が従う理由が1つ無くなったのだ、いざとなれば徐州、青州で独立すればいい。

陳宮の思いとは別に張遼は着々と自分達の立ち位置を作り上げていくのであった。

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