第108話 陳宮がいない

陳宮が出立して2ヶ月も経つと曹丕の心の傷も少しはマシになりつつあった。

曹清以外にも夏侯惇の長男である夏侯充や杜畿など以前から親交のあった者達と少しずつではあったが会話をすることが出来きていた。

「曹清様、曹丕様のご様子は?」

「これは夏侯充様、今日は曹丕も機嫌もよろしいみたいですのでどうぞお入り下さい。」


曹清と夏侯充もここ暫くの面会で互いに面識が出来ており、曹丕の容態についても話し合ったりしており、その姿を見たものが二人の仲を噂していたのだった。


「夏侯充、よく来たな。」

曹清に案内され、曹丕の元に通されると話の通り上機嫌で出迎えてくれる。

夏侯充は他愛のない話から始まり、世間の事情などを話す。

「して、父上はいつ私の恨みを晴らしてくれるのだ・・・」

ふと暗い目をして曹丕が聞いてくる。


「今、軍を動かす準備をしております。

私も父と共に曹丕様を害した痴れ者を始末してまいります。」

夏侯充にとって弟とはいえ、主君の息子を裏切ったのだ、その酬いは受けさせなければならない。

夏侯惇と同じく夏侯充は夏侯楙を討ち取るつもりであった。

「頼もしい言葉だ、夏侯充期待している、憎き首を私の元に持ってきてくれ。」

曹丕と夏侯充の話で曹清はふと気になる。

戦の話があると言うことは陳宮も動いているはず。

そう思うものの、陳宮からそのような話は聞いた覚えが無い・・・


そこまで考えて気づいた。

この2ヶ月の間、陳宮と会っていない。

曹丕の看護にかまけて陳宮と会えていなかったのだ。

だがこの時点で曹清にそこまでの焦りはなかった。

何を言っても結ばれているのである。

その事は心に大きなゆとりとなっていたのだ。


夏侯充と曹丕が話している間に陳宮に会いに城で陳宮が自室扱いしている部屋へと向かうがそこには誰もいない。


掃除こそ侍女達がしている為にホコリこそ無いもの、生活感が無い。

曹清は真っ青になる、既に出陣しているかもしれないのに見送りもしていない。


しかし、陳宮も陳宮だ、出陣するなら連絡ぐらいしてくれればいいのに・・・

曹清は少し不満気に頬を膨らます、まさか会いに来ていたなど夢にも思わなかったのだ。


曹清は陳宮の動きを知るために曹操を訪ねる。

「お父様にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「どうした曹清?曹丕に何かあったか?」

「いえ、曹丕は元気になりつつありますよ、今は夏侯充と話しているところです。」

「そうか、それならいい。

して聞きたい事とは?」

「陳宮様は何処に行かれておりますか?」

「・・・聞いておらぬのか?」

「はい、このところ曹丕の面倒を見ていた為に会えておりませぬ。

もう戦場に行かれたのでしょうか?」

「陳宮なら2ヶ月前に徐州に赴任してもらっている。

此度の戦は青州から袁紹を牽制する役目を与えているのだが・・・

曹清、本当に聞いておらぬのか?」

「はい、陳宮様も出立なさるならご連絡致してくれても良いと思うのですが。」

「そうだな、徐州赴任は急ぎと言う訳でもなかったからな。

それに曹彰は付いていっておるぞ。」

「まあ、曹彰が!ご迷惑をかけて無ければよろしいのですが。」

「大丈夫だろう、それより支度が整った、これより夏侯惇を大将にして袁紹攻めを行う、少なくとも黎陽を落とすつもりだ。」

「曹丕の仇を取るのですね。」

「そうだ、まあかなりの軍を動かしているからな、お前が徐州に向かうのは少し待て。」

曹操は曹清の身の安全を考えると少数の護衛で徐州に向かわす事など出来ない。

曹清には悪いが我慢してもらうしかないのだ。

「うー仕方ありませんね・・・」

曹清も事情を察して我慢する道を選ぶ。

徐州に行っても陳宮は既に戦場に向かっているのだ、無理に向かう必要は無いと感じていた。


「暫しの間だけだ、すぐに戦は終わるだろう。」

曹操の言葉を聞き、今暫し曹丕の看護につくのであった・・・

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