第109話 停滞

黄河を挟んで睨み合いをする中、俺は袁紹軍が黎陽の防衛に動いた時に、いつでも攻撃を行えるように徐盛に対岸まで兵を運ぶ船とその船を操る漁師達を集めていた。


「陳宮、睨み合いじゃなかったのか?」

「戦況はいつどうなるかわからない、いざと言う時に備えるのが俺の役目だ。」

軍にいる幹部達は陳宮が毎晩、天気や敵動きの変化を想定した、様々な状況を仮定して軍略を練っている事を知っていた。


「陳宮少しは休め、郭嘉程ではないが顔色が悪いぞ。」

「大丈夫だ、戦場において軍師が寝ることは全軍の崩壊を招きかねん、ましてや敵は大軍だ油断すると瞬殺されかねん。」

張遼は説得を諦める、この男は頑固なのである、単純に意見を聞くとは思えなかった。

そう考えると陳宮の睡眠を引き出していた曹清は凄いのだろう・・・

待てよ、寝るだけなら何も曹清である必要は無い。張遼は下邳に滞在している大喬小喬の二人を呼び寄せる、以前聞いた二人の演奏は素晴らしかった、あの音色を聴けば陳宮も寝ることが出来るだろう。

敵への警戒など、俺と高順でも出来る。

ましてや黄河が間にあるのである。

容易く渡河を許すような自分達では無いのだ。


張遼は陳宮に休ませることを最優先に考えていた。

そんな折、喬公を通して大喬小喬の二人が陳宮の慰問に伺いたいとの手紙が届く。

二人は曹清が距離を取っているうちに陳宮を手に入れようと動いていたのだ。


「それは丁度いい話だ、すぐに来てもらおう。」

張遼は渡りに船とばかりに二人を呼ぶことにした。


「張遼、これはどういう事だ?」

俺は宴の準備をしている張遼を見つけて問い詰める。

「陳宮、敵と対陣しているとはいえ、お前は気を張り過ぎだ、お前はそれでも良いかもしれんが、上のお前が少しは抜くことをしないと下の者達も息が詰まってしまう。」

「たしかに一理あるだが守りはどうする?

私では無く、高順か張遼のどちらかが仕切れば良かろう。」

「おいおい、この軍のトップは誰だ?

お前が呑まねば始まらん、なに見張りは俺と高順の2人でやる。

それとも俺達は頼りないか?」

「お前達は頼りになるよ、わかった降参だ、宴を開けば良いのだな。」

「おう、今日と明日に分けて多くの者達の息抜きにしてやりたい、お前もちゃんと呑めよ。」

「あーそれなら明日は俺が見張りをするから、明日はお前達のどちらかが呑むといい。」

「今回は俺達は遠慮するさ、2日ぐらいハメを外して呑むといい。」

俺は張遼の気遣いに感謝する。

俺に兵の士気を見るのは出来ない、どうしても理論で考えてしまう。

張遼達がいるからこそ、兵士の士気まで目が届き、軍は最強のままで戦い続けられるのだと、改めて思い知らされたのだった。

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