第20話 介抱される

「陳宮様!!なぜこのようなところにまで!お部屋にお戻りください。」

馬車から慌てるように降りてきたのは曹清だった。


「曹清様、なぜこのような所に?」

「そのような事はあとです、早く寝所へ。」

「いえ、これから夏侯惇を出迎えなければ・・・」

「かまいません、高順さんお任せします。

何か言われれば私の名前を出してください。」

俺は曹清に引かれるように寝所へ向かわされる。


少し遅れて夏侯惇がやって来る。

「曹清は陳宮を連れて行ったか?」

「夏侯惇将軍、ようこそお越しくださいました、陳宮に代わり礼を述べさせてもらいます。」

「堅苦しい話は抜きだ、高順、軍は動かせるか?」

「陳宮の命で準備は出来ております。」

「ならば、私と一緒に下邳を落としに行くぞ、張遼は3千の兵で小沛を守備してくれ。」

「はっ!」

「本隊の曹操もすぐに来る、張遼は曹操の出迎え準備をして待っていたらいいさ。」

夏侯惇は告げるだけ告げると高順と共に下邳を落とすために軍を進めるのだった。


「張遼、宴の準備は出来ているか?」

俺は寝所に押し込められているが寝台から張遼に指示を出す。

「夏侯惇将軍は高順を連れ、既に出立して下邳に向かいました。」

「なっ!こうしてはおれん、張遼、小沛は任せたぞ!」

「ダメです、陳宮様は寝台から動かれないように、おじさまが代わりに落としてきてくれますから。」

曹清が俺の言葉を遮り、動かせてくれない。


「ですが、私の不首尾を夏侯惇に尻拭いさせるなど。」

「不首尾と言うなら、私のせいです・・・

私が典満に護衛などを頼むから、陳宮様はおケガをなされてしまったのです。

せめて癒えるまでは私に介抱させてください。」

曹清は俺の手を握り、泣きそうな顔で見ている。


「曹清様のせいではありません、私が典満の機微に気づかなかっただけなのです。

曹清様が責任を感じて介抱などする必要はありません。」

「いえ、私が介抱したいのです。

どうかお側においてください。」

曹清は瞳を潤ませ俺にしなだれかかっている。


「・・・ゴホン。失礼、私はここらで下がらせてもらおうかなぁ。」

張遼は居場所が無かった。


「待て!張遼、この場にいろ!」

「でもなぁ・・・」

張遼は曹清の方をチラリと見る。

「張遼、陳宮様の事は私がみますから、下がっても大丈夫ですよ。」

「姫様の思し召しのままに。」

「張遼!!」

無慈悲にも張遼は部屋から出ていくのだった。


「さあ、陳宮様、ゆっくりお休みください。

何かあればおっしゃってください。」

曹清は笑顔で俺を寝台に寝かしつける。

「曹清様、私はもう寝ますので、どうかお部屋にお戻りください。」

「陳宮様がお眠りになるまで側にいますわ。」

俺はわずかながらの抵抗を試みるも曹清に流される。

俺は何か無いかと周囲を探すと違和感に気付く、姫である曹清の側には侍女がつくはずである。

「曹清様、侍女の方達は何処に?」

「侍女ですか?隣の部屋に控えておりますよ。」

「そうでしたか、それならば私の世話などその侍女にお申し付けくだされば・・・」

「陳宮様は私の事がお嫌いなのでしょうか?」

曹清は泣きそうな表情を見せる。

「いえ、そのような事はありません。」

俺はもう降伏するしかない、曹清を止めれるものは城にはいない。


俺は曹操の到着を待ち望むのだった。

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