第13話 典満
典満は若くして、父典韋の功績により、曹操から郎中の位を授けられ、近衛として曹操の側に仕える事を許されていた。
父の武勇伝を誇りに思い、主君である曹操に対する忠誠は人一倍高かった。
「典満、頼みがあるのです。」
曹操の長女、曹清が慌てるようにやって来る。
彼女は近衛に対しても別け隔てなく優しい御方であり、歳の近い典満としては憧れの気持ちもあった。
「これは曹清様、何用でもお申し付けください。」
「頼もしいお言葉です。
実は典満に陳宮様の護衛についてもらいたいのです。」
「陳宮の護衛ですか?」
「はい、陳宮様はお父様の御命令で劉備討伐に向かわれるのですが、御身体の具合も悪いというのに、無理をなされてしまっているのです。」
典満にとって主命を受けた以上、身体の具合など二の次、曹清が心配している意味がわからなかった。
「典満、陳宮様は戦場に赴かれているのです、かの方の身辺の警護と御身体の具合に気を使ってもらいたいのです。」
「御命令とあらば従います。」
「そうですか!ありがとうございます。
典満がついてくれるなら安心ですね。」
曹清は笑顔をみせて喜んでくれる。
典満はその笑顔に見惚れるものの、胸に少しチクリとする痛みを感じるのだった。
曹操の命令も下り、典満は出陣の準備をするのだが、陳宮の人となりが噂で聞こえてくる。
曹操を一度裏切った上に呂布を裏切り、曹操に降った男。
主君であった呂布の娘を降伏の際に無理矢理自分の嫁とした卑劣漢。
呂布の妻を監禁し、自分の物としている。
など様々な悪評がたっているのだ。
「まさか曹清様を騙して我が物にしようとしているのではないのか。」
典満の脳裏に陳宮に対する不信感が生まれていた。
「典満、これを陳宮様に届けてください。」
出陣にあたり曹清が典満の見送りに来ていたのだが、その内容は陳宮への届け物だった。
「曹清様、こちらは?」
「医師に調合してもらったお薬と武運を願った御守と手紙を入れてあります。
典満、必ず陳宮様に届けてくださいね。」
曹清は少し恥ずかしそうに伝える。
「わ、わかりました、ただ陳宮殿もお忙しい身でありましょう。
御返信できるかどうかはわかりかねますが。」
「返事などよいのです、ただご無事でいてほしいのです。
典満、宜しくお願いします。」
曹清の瞳は典満を信じて疑わない、それと同時に陳宮の身を案じていることがしっかりと伝わってきたのだった。
「お任せください、必ず良きように致します。」
典満はそう答えると高順率いる本隊と共に陳宮が待つ琅邪に向かい出立したのだった。
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