第162話 渡河成功を受けて

曹操は黎陽の対岸の白馬に陣を敷き、袁紹軍と睨み合う。

「申し上げます、高順に動きあり、渡河に成功した模様!」

「なんと!流石は陥陣営、見事な攻めだ。

して陳宮の動きは?」

「わかりませぬ!未だ行方がわかっておりません。」

「ふむ、郭嘉、荀彧、陳宮はいったい何処にいると思う?」


「高順のみを攻めに使うとは思えませぬ、さすれば迂回して・・・」

郭嘉は地図を眺めながら一つの事に気づく。


「殿、陳宮は海から別部隊を忍ばせ、陸路から強襲をかけたのではありませぬか?」

「海からか!」

陸戦を得意とする曹操軍には無い考えであったが、徐州、青州ともに海に面している、しっかり準備をすれば海からの進攻も可能なのかも知れない。


「さしずめ陽信から楽陵を通り、袁紹軍の北側に出て高順と挟み打ちにしたものと想定します。」

郭嘉にしても更に北側に上陸し、無警戒の南皮を落としているなど想像も出来ていなかった。


「たしかに上陸さえ出来れば騎馬隊の強さが行かせるからな。」

「ええ、警戒していない北からの攻撃に袁紹軍は戸惑った事でしょう。」

「ならばこちらにもそろそろ動きがあるか?」

「陳宮が何処までやるかにもかかっておりますが、さしずめ平原を落とし、対袁紹の足場とするでしょう。」


「ふむ、ならば、我らは如何にするか・・・」

「敵は平原に兵を向けるでしょう、それに合わせて渡河し、黎陽を落とし、そこを足がかりに周辺の制圧といった所でしょうか?」


「違いない、全軍に指示を、いつでも渡河出来るようにするぞ。」

曹操の命令とともに戦の機運が高まる。



「流石は陳宮だな。」

高順の渡河成功を聞きつけ、夏侯淵は感心していた。

「流石は高順であろう、あの陥陣営は有り得ぬほどの強さを持つな。」

曹仁は夏侯淵と話しながら高順の強さを褒め称える。

「違うな、恐るべきは高順を扱う陳宮だ、どうせ今頃有り得ぬ策を持ち進軍している筈だからな。」

「あれは頭でっかちだ、決めねばならぬ時の決断が遅いではないか。」

「決断が遅かったのは呂布の判断力だ、陳宮が進言した時に動けば、今頃生き残っているのは我らじゃなく呂布であっただろうな。」

「夏侯淵は昔から陳宮を庇うがあの男がそれほどか?」

曹仁は不思議に思う、夏侯淵は持ち上げるが陳宮の凄さはわからない、武勇は出来ない、兵を直接指示させてもいまいちである、陳宮が指揮する軍を破る自信が曹仁にはあった。


「曹仁、お前はもっと戦略を考えろ。

今後一軍を率いることになるかも知れないだろ、いつまでも自らの武勇だけで何とかなる事だけじゃなくなるからな。」

「そうは言ってもだな、戦など槍があれば何とかなるものだろ?」

「その考えが古い、敵より深く考え、戦を続けるにはどうすればいいか、敵の弱いところは何処なのか、考える事が山積みなんだ。

いつまでも曹操の足元で戦い続けるだけの武将のつもりか?

もっと自分の立場を考えろ。」

夏侯淵は曹仁を叱る。

今後戦線は拡大していく、その時に前線を任せれる将がいなくては戦にならない。


曹操の従弟にあたる曹仁はそう遠くない将来、軍を任される有力候補である。

夏侯淵は今のうちに曹仁にもその準備をしてもらいたかったのだ。


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