第163話 夏侯淵と曹仁

「一軍か・・・たしかに憧れはするがな。」

「憧れではすまん、お前は有力候補だと思うぞ。」

「俺がか?」

「そうだとも、夏侯惇、曹洪は重傷の身だ、一軍を纏めるには辛いだろう。

だが、俺と陳宮だけじゃ広い中華、手が回らん。

そうなると一族はまだ若い奴らだけになるからな。」

「なんだよ、歳の差かよ。」

「そりゃな、だが戦場で戦果を上げているのもお前だけということもある。

まあ一族以外なら他にも任せれそうな奴はいるが、それをすると面倒になるだろ?」

「徐晃、于禁あたりか?まあ戦の才能は有りそうだが、忠誠の話だよな。」

「それもあるな、軍を任せて裏切られたらどうしようも無い、やはり大将に出来るのは曹操の一族ということになるな。」

「ふむ、ならば曹清の嫁ぎ先が陳宮というのもあながち間違いでは無いのか。」

曹仁は陳宮と曹清は政略結婚であり、年の差を考え、世情が安定すれば離縁するのが当たり前と考えていた。


「間違いも何も、いい手だな。

陳宮を一族に取り込めば、ある程度陳宮に裁量を任せても理由を立てれる上に、あの男が妻を裏切るような不義理な真似はたやすく出来んだろうからな。」

「だかなぁ、陳宮の奴は離縁する気だったぞ?」

「なに?それは少々困るな、曹仁も止めたのだろ?」

「いや曹清は夏侯充が好きなのだろ?

それなら好きな者同士くっつくようにしてやろうと思ってだな・・・」

「浅はかな。

お前は政略結婚を何もわかってない。

この際、曹清の気持ちなど、どうでもいい。

大事なのはどうやれば天下を取れるかだ、この先夏侯充が成長したとしても陳宮ほどの将にはなるまい。

今必要なのは陳宮の才能だ、もし離縁などすれば陳宮の動きをどう制する。」

「だがなぁ、ほれやはり好きな相手と結ばれたいものだろ。

お前は曹清が可愛くないのか?」

曹仁にしてみれば曹操の長女でもある曹清は産まれた時から知っている、自分の子供のように可愛がってきたのだ、その娘が好きでも無い男に嫁ぐなどいくら政治的配慮があるといえ可哀想に思っていた。


「たしかに可愛い娘だ、だからこそ陳宮を引き止めるチカラになると思っている。

くそっ、俺が都にいない間にお前まで平和ボケした馬鹿な考えに踊らされているとは・・・」

「おいおい、馬鹿ってなんだよ!」

「馬鹿じゃないか!夏侯惇は曹清が嫁いでこようが関係無く曹操を裏切るような漢じゃない、それなら別の家と縁を結ぶのが当然だ、それをあんな噂が流れるまで放置しやがって!

俺が都にいたら夏侯充を斬ってでも噂を叩き潰したぞ!」

夏侯淵は曹仁の浅はかな考えに激怒する、若い者が色恋で我を忘れるのは百歩譲って認めてもいい、だが曹操に天下を取らせる為に戦ってきた自分達が色恋などに惑わされる事などあってはならない。

若者を叱りつけてでも大義を通すべきなのだ。


「夏侯充を斬ってもっては言い過ぎだ!」

「どこがだ!あの時点で陳宮の婚約者だったと聞いたぞ、それに手を出すような軽薄な男に天下国家は任せられん、百害あって一利なしとはこの事だ!」

「夏侯充とて、天下を支える若者だ、それなら好きな者と結ばせるのも一つだろう?」

「天下を支えるようになってから考えれば良い話だ、今は何も出来てないヒヨッコじゃないか。」

「ヒヨッコまで言うなよ、夏侯充も頑張っているところじゃないか。」

「頑張ればいいという話ではない。

あの噂でどれほど陳宮の面子を潰したのか理解も出来ていないのか。」

曹仁が都で会う機会の多い夏侯充や曹清の気持ちに配慮しようとしたことはわかっている、だがそこには陳宮の面子ということが抜け落ちている。


手柄を立て続ける陳宮が褒美として貰った姫を横恋慕で奪い取ろうなど、陳宮だけで無い、他地域の諸侯からすれば手柄を立てても意味が無いという結果を示す事になっていることに気付いていないのだ。


「曹仁、陳宮と曹清の結婚に反対する者を集めろ。」

「集めるって言っても都にいる奴らは無理だぞ。」

「まずは戦に来ている奴らだけでいい、俺が喝を入れてやる。」

「おいおい、そこまでしなくても・・・」

「曹仁、お前は曹操に天下を取らせないつもりか?」

「それは俺達の悲願じゃないか、当然曹操の天下の為に命をかけるつもりだ。」

「ならば従え、それともお前から喝を入れてやろうか?」

「いや、集めてくる!」

曹仁は慌てるように人を集めだすのであった。

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