第85話 噂は広まる

陳宮の噂は広まっていく。

英雄のような活躍、かつて住民が害された時、曹操に逆らい軍を起こした事、曹清との仲睦まじいエピソードなどが笑いも含めて住民達の人気を集めていた。

そして、その噂と共に名を落としているのが呂希てあった。


陳宮のお情けで妻として守られていたのに不貞を働き、離縁された悪女と呼ぶには矮小な存在として語られており、多くの者に嫌われる存在となっていたのだ。


そして、その噂は母の実家がある下邳にも届いていた。

下邳は陳宮の活躍の中で早くから従っている地域ということもあり、活躍した陳宮を我が事のように喜んでいた。

また、陳宮が施した治世が実を結んだ事もあり、生活が豊かになりつつもあった。

その為、他の地域より陳宮に対しての敬愛が強くなってきていた。


「我が家からお前のような者が出るとは・・・嘆かわしい。」

厳氏の父にあたる、厳憎は帰ってきた厳氏と呂希を当初は快く迎えていたのだが、噂が広がるに連れて厄介者として扱うようになっていた。


噂が広まってから厳憎の家は、恩知らずな不義の家と扱われており、纏まりかけていた長男の娘の縁談も破談となっていた。


「なによ!噂ばかり信じて!悪いのは陳宮よ!見なさい、曹操の娘に懸想してるだけじゃない!」

呂希は独自の理論を振り上げ周囲に当たり散らすが、この時代男が複数の女性を囲うのは普通の事であり、曹清自身が望んで陳宮の周りにいようとしていたことは徐州の民ならよく見かけたこともある話であって疑う余地も無い。


呂希の言葉が受け入れられる事は無かった。


「厳氏、話がある。」

厳憎は深刻な表情で厳氏をよびだし話をする。

「お前達を、いや、呂希をこの屋敷で匿う事は出来ない。」

「そんな!お父様、私達をお見捨てになるのですか!」

「すまない、だが、既に私の家もお前達の噂でガタガタなのだ。

家を残す為にも出て行ってくれないか。」

「そんな、家を出されて何処に行けと言うのですか!」

「鄴に私の親戚の家がある、曹操の支配下から出ればお前達の噂もマシになるだろう。」

「・・・わかりました。私達は鄴に移ります。」

厳氏は厳憎の苦しそうな表情を見て、鄴に移り住む事を決める。


「呂希、鄴に移り住む事にしましたよ。」

「お母様、それはどういうことですか!」

「曹操の支配下では私達に幸せが無いからです。」

「そうですね、曹操の下でなど暮らせませんわ!

なんでこんな簡単な事に気づかなかったのでしょう。」

「わかってくれて何よりです、お父様のご親戚の方が鄴におられるのでその方を頼ろうと思います。支度をなさい。」

「わかったわ、すぐに行きましょう!」

呂希と厳氏は追われるように鄴に向かって行くのだった。

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