第84話 一夜明けて

俺と曹清の仲は翌日には曹操の口から多方面に広げられた。

「いやぁ、曹清が積極的過ぎてな、陳宮などタジタジだったぞ。」

今まさに夏侯惇に話をしていた。

「あの堅ぶつ陳宮がなぁ・・・曹清が積極的なのは知ってるが。」

「アレは俺によく似てる、自分の好きなものに一直線だ。」

「して、渦中のお姫様は?」

「陳宮の所だな。

もう家に帰らないとまで言って陳宮の側にいるな。昨晩が初夜か?」

曹操は楽しそうに笑っている。


「しかし、笑える話だけじゃあるまい。

若造達が反対しているそうだが。」

「意見など受け付けん、そもそも先の大戦で立てた手柄を考えれば娘を授けるのに何の問題がある。」

「まあ、そうなんだがな、相手が陳宮という事でその曹清が無理矢理嫁がされていると騒いでるみたいだな。」

陳宮の見た目は枯れたオッサンだ、若者達にとって憧れの姫様が無理矢理嫁がされるなど悲劇に感じて助け出さねばという義侠心に駆られているようだった。


「無理矢理?逆だろ?陳宮が無理矢理迫られているようにしか思えぬのだが。」

曹操は昨晩、娘に吸い付かれている陳宮を思い出し苦笑が漏れる。


「事実を知るものからすればそうなんだが・・・」

夏侯惇にとって頭の痛い話だった。次男である夏侯楙が何故か自分が本来曹清と結ばれる筈だったと騒ぎ騒動の中心にいる。


確かに産まれた際、曹操とそれに近い話をしたことはあるが決定したとは到底言える話ではない、だが夏侯惇自身の名声と相まって真実のように拡散されてしまった。

そして、その意見の中心に曹丕がいることも説得力を増していた。


「ふむ、曹丕も関わっているのか?」

話を聞いた曹操は顔を歪める、功臣になるであろう陳宮を受け入れる事が出来ないということは器に足りない、曹操の中で後継者として足りなく感じる。

「曹丕は周りに流されているようにも見えるな、若者特有の年上への反発に巻き込まれているのだろう。」

「だが、それでは不味い、曹丕は既に10歳だ、自身で考える事もできるであろう。」

曹操の目が冷たく光る事に夏侯惇は気づいていた。

「結論を急ぐな、少しは様子を見よう。」

「お前が言うならな、だが問題を起こすようなら。」

「俺の方からも言っておくから、少し待て!」

夏侯惇は曹操を止め、慌てるように曹丕に会いに行くのであった。


その頃俺の所には曹彰が来ていた。

「義兄、それで大戦はどうだったのですか!」

俺の前に身を乗り出し、官途の戦いについて目を輝かせて聞いてくる。

「曹彰様、私は軍師にございます。曹彰様が望む武勇伝はありませんよ。」

「何を言ってます!劉備を蹴散らし、徐州を瞬く間に制圧、寿春を手に入れ、青州を制圧!

袁譚5万を瞬殺!黎陽を落とし、官途で兵糧庫を焼き払う!

このような、戦、歴史の英傑でも不可能な話です!」

「それも曹清様の仁徳のおかげですね。」

俺は恥ずかしくなり、曹清に丸投げすることにする。


「ふふ、曹彰はわかってますね、私の主人はすごいでしょ?」

「はい!義兄は最高です!!」

「そうですよ、最高なのです。」

「姉上、僕も義兄と一緒に戦場に行ってみたいです!!」

「曹彰にはまだ早いけど、ちゃんと武技を身に着けたら、その時は主人と共に戦に行きましょうね。」

「姉上約束ですよ!」

「はい♪」

曹清は上機嫌で話すが、曹彰を戦に連れて行くのは曹操の許可がいるだろう。


「曹清様、そのような約束は・・・」

「義兄、ダメですか・・・」

曹彰は泣きそうな表情をみせる。

「・・・わかりました、ただし、曹操の許可を得てからです。」

「ありがとうございます、義兄!!」

「それと(まだ)義兄じゃありませんから!!」

「あら、陳宮様昨晩は・・・」

「曹清!その事を曹彰様に言う必要は無いでしょう!」

「わかってますよ。でも、私としては寂しいので今晩もご一緒しますから。」

曹清が俺にもたれかかってくる。


「はわわ・・・姉上が大人です!

父上!姉上が大人になりましたぁーーー!!」

曹彰は大声で叫びながら曹操の元に駆けていく。

「曹彰さま!!そのような事を叫ばないでぇーーー!!」

俺は止めたくとも抱きしめている曹清を引き離す事が出来ず、曹清が大人になったことは公然の秘密となるのであった。

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