第172話 若者達

引き上げる袁紹軍を見て、曹操軍、特に若者達達は騒ぎ出し追撃を進言する。

「曹操様、どうか我らに追撃の許可をいただきたい!」

曹休、曹真、夏侯充、夏侯徳といった次世代の若者達がこぞって曹操に進言するために集まっていた。


「袁紹は退却している訳では無い、緩やかに引き上げているのだ、その備えは充分であろう、それより渡河して黎陽を含め袁紹が捨てた土地を支配下に置く。」

「曹操様!どうか一戦の許可を!必ずや手柄を立てて参ります!」


「・・・わかった、そこまで言うなら許可を与えよう、だが無理な追撃はするな、城に入られたら撤退せよ、いいな!」

「はっ!」

曹操は若者達の熱意を買い、一戦を許す、たとえ敗けたとしても大勢に影響は無いだろうと考えてもいた。


「曹操様、よかったのですか?

袁紹程の漢なら守りも固めておりましょう。」

「敗戦もいい経験になるだろう、我等とて負け戦から学んで来たのだから、むしろ敗戦しても影響の少ない時に袁紹と戦えるのだ、良い機会と思わねばならぬだろう。

それより、我等は黎陽を抑える。その後は周囲の平定だ!

鄴に籠もるであろう袁紹から支配地域を奪い取るのだ。」

曹操は古参の臣下を各地域に行かせ支配権を獲得していく。

曹操軍の攻勢が始まるのであった・・・


「夏侯充、今回はお前が総大将だからな。」

「いいのか?」

「いいも何もお前が曹清様をお救いする戦いだからな。」

「なら、引き受ける。みんなチカラを貸してくれ。」

「「おう!」」

この時の若者達は気付いていなかった、戦うべき相手は陳宮では無く、袁紹だという事を。


つい先日まで天下にあと一歩の所まで来ていた英傑と戦うという事を簡単な戦かのように感じていたのだ。


夏侯充は先の敗戦を経て、立ち直った事により見た目は将として振る舞えるようになっていた。

「先陣は夏侯徳に任せる、左翼に曹真、右翼に曹休が入ってくれ。」

若者達で軍議を開き自分達で戦を検討する、これだけでも若者達にとって得難い経験である。


「夏侯徳、夏侯尚は来なかったのか?」

夏侯充は姿を見せていない夏侯尚の存在が気になっていた。

「それがな、今一度自分を鍛え直すとか言って典満と一緒に徐晃将軍の下で働くとか。」

「なんだそれ?徐晃将軍なんて新参者じゃないか。」

「いや、だからこそだとか言ってたが・・・」

「大事な時に何を考えているんだ、まったく!

アイツラは曹清様を救う気はないのか!」

曹真は憤る。


「落ち着け、アイツラにも考えがあるのだろう、それに俺達が手柄を立てたらアイツラより一つ上に立てるからな。」

曹休は笑いながらいう、近衛兵として勤める曹休にとって手柄を立てれる機会は数少ない、目の前にある手柄に興奮が隠せていなかった。


「曹休、興奮し過ぎだ、頭に血が回りすぎているとケガをするぞ。」

「大丈夫だ!俺はそっちの方が身体が動くからな!」

曹休はこれまで近衛兵として従軍していただけであり、戦の全ては曹操か隊長を勤める曹純が考えていたのだ、曹休はただ何も考えずに槍を振るっていただけであったが、曹操の華麗な戦ぶりを味わい続けた事で自分も出来ると根拠のない自信に溢れていた。


烏合の衆・・・

その言葉が似合う若者達は袁紹が用意してある、罠に飛び込もうとしていた。

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