陳宮異文伝─汚辱にまみれて生き残る─

第171話 二人の捕虜

俺の所に袁譚と袁尚が連れてこられているのだが・・・

「無様だな、兄上。」

「お前こそ惨めな姿を晒しおって、潔く自害せぬか！」

縄で縛られながら二人が罵倒しあっている。

「お前ら静かにしろ！

まったく袁家というのは見苦しい一族なのか。」

あまりの醜態に魏越が注意するのだが、

「「貴様！袁家を侮辱する気か！！」」

何故か息があったように反論する。

こいつら仲良しだろ・・・

俺はため息を漏らす。

「御二方、敵将たる私が言う事ではありませぬが、御二方の振る舞い一つに袁家の姿が見られているのです。

もう少し振る舞いを気になされた方がよろしいかと。」

俺の言葉に思うところがあったのか袁譚と袁尚の争いは一時的におさまる。

「さて、御二方の処遇ですが・・・」

「陳宮殿、貴殿の戦ぶり誠に見事だ、その知略をもって袁家に仕えぬか。」

袁尚は先程までの醜態が無かったかのように姿勢を正し語ってくる。

「えっ、えーと。」

だが、この状況で勧誘してくるとは思っていなかった俺は少し意表を突かれる。

「なに、袁家に仕えると言ってもそれほど堅く考える必要は無い、この私が貴殿の後ろ盾となろう。」

「・・・」

「袁尚、何を言う。後ろ盾がお前だと陳宮殿が不安になるであろう。

後継者であり嫡男のこの袁譚が陳宮殿の後ろ盾になる。

何も不安に思うことは無い。」

「兄上が後継者と決まった訳では無い！

陳宮殿に嘘を教えるな！」

「何をいうか！嫡男が家督を継ぐのが習わしだ！」

「家督は父上の御心次第だ！」

またしても二人は睨み合う。

「誘いはありがたいが、袁家に仕えるつもりは無い。」

「な、なんと申されたか！」

「私は袁紹殿に仕える気はありません。

それより御二方の処遇についてお話したい。」

「我々の・・・」

「処遇・・・」

袁譚、袁尚は息を呑む。

意気揚々と勧誘していたがそれは自身の置かれた立場を何とか好転させようという行動であった。

袁家に敵対する者の捕虜になる事は先の曹丕にした扱いを思い出し、冷や汗が流れる。

「ご安心を、私は別に拷問をかける趣味はありません。」

その言葉に二人の緊張が解けるのが見られた。

「ですので、袁紹殿との交渉に使わせてもらいます。」

「交渉か・・・」

袁譚は考えている、自分の事を父が助けてくれるのだろうかと。

「それまで大人しくしていただきたい。

あまり無理を言われるとその身の保証すら出来なくなりますので。」

「わかった、陳宮殿に従おう。」

袁尚は堂々と答える、袁尚にとって父は必ず助けてくれると疑っていなかったのだ。

俺は大人しくなった二人を下がらせる。

「陳宮いいのか？」

張遼の質問の意味がわからず聞き返す。

「なにが？」

「あの二人の身柄を曹操が求めてきたらどうする？」

「曹操には渡さない、いや渡せないかな。

曹丕様の件もあるからね、どれほど酷い真似をするかはわからない。

俺としては降った者を拷問にかけるような真似はしたくない。

それにだ、あの二人の仲の悪さは想像以上だね、あの二人が無事に袁紹軍にいてくれた方が俺達に都合が良さそうだ。」

俺はここで処刑してしまうより、二人の仲の悪さを利用する方が袁紹の足を引っ張れると考える。

「袁尚にはできる限りのもてなしを、袁譚には失礼の無い最低限の扱いをしてくれるかな。」

「待遇に差をつけるというわけか、仲違いが進みそうだな。」

「単純な策だけど不満というのは溜まるものだからね。」

俺の言葉通り袁尚、袁譚の扱いは分かれる、袁譚の不満は溜まる一方であった。