第170話 戦後

俺が袁譚、袁尚を破った事は天下に知れ渡る。

「なんだと、袁尚、袁譚が敗れただと!して、袁尚の身は!無事なのか!」

「わかりません!主だった者が帰って来ておらず、辿り着くのも姿を見ていないとの事です。」

「どういう事だ、戦をしたのなら総大将の行方ぐらいわかるだろう!」

「そ、それが袁尚様は戦を始める前に撤退なされたとの事で・・・」

「そんな馬鹿な話があるか!ええい!袁尚を探す捜索隊を派遣せよ!」

「はっ!」

袁紹は行方知れずの袁尚を探すために部隊を送るのだが・・・


「袁紹様、袁譚様、袁尚様の行方も大事ではございますが、今は陳宮の対応も考えねばなりませぬ。」

沮授が袁紹に進言する。

黄河対岸に曹操と対峙している今、東から陳宮に攻められる事態は何としても避けたい所であった。

「・・・沮授、何か策は無いか?」

袁紹は一度落ち着いて考える、袁尚可愛さに取り乱してはいたが袁紹とて天下に覇を唱えた群雄である、今の事態の危険性を感じていた。


「現在、陳宮は大きくなり過ぎました、彼の者は呂布に仕えていたような者、忠誠とて知れたものでしょう、ここは離間の計にて曹操と陳宮を引き離しましょう。」

「離間の計か・・・うまくいくか?」

「いくやも知れませぬ、陳宮とて狡兎死して走狗烹らるの話は知っておりましょう。

その上、どうやら曹操が与えた娘が他の男を誑し込んでいた模様、今は無理矢理夫妻にしたようでございますが、陳宮とて面白くない話でございましょう。」

「愚かな娘が曹操を苦しめるか、それは良い。

して陳宮を取り込む事はできるか?」

「それは少々厳しいかも知れませぬ、既にかなりの勢力となっております。

ここは同盟相手と考えるべきかと。」

「ぬぅ、悔しいが致し方ないか・・・」

「はい、とはいえ袁紹様が再びチカラを取り戻されるまでにございます。」

「うむ、そうだな。

しかし、曹操の娘が妻にいるということは少々邪魔だな、男を誑し込むような女だ、陳宮とて誑し込まれるかもしれん。」

「ならばこちらからも妻を送りますか?」

「ふむ、だが私に娘はいないぞ。」

「見た目麗しき賢き者を養女にして送れば良いのです、このことは奥方様の劉氏様に相談なされては如何でしょうか?」

「そうだな、たしかに良い手かも知れん。」

袁紹は沮授の策を考える、思わぬ敗戦により国が乱れる今、戦をする時では無い。


「まずは鄴に戻る、あそこなれば何年でも籠城出来るからな。」

「はっ、良き案にございます。」

袁紹は鄴へと撤退するのであった。


その頃俺は戦場にて降伏した者達と面会していた。

「牽招殿、張郃から聞いたが中々の武人だとか。」

「敗戦している身で武を語る気はありませぬ。」

「戦は武のみで行うのではない、勿論武も大事だ、だが武だけでもうまく行かない、戦は将の武、軍師の智が有り初めて勝てるのだ。

牽招殿が敗けたのは軍師のせいであろう、自らの武を辱める必要は無い。」

「勿体無いお言葉、陳宮様、願わくば部下の命をお助け願いたい。」

「何を言う、張郃が約束したのは御身も含めた待遇の保証だった筈だ、私は張郃がした約束を破る気にはなれない。

降ってくれた以上、部下と共に我軍で同待遇で迎えるつもりだ。

どうか約束を守る為にも我軍に入っていただきたい。」

俺は深く頭を下げる。

「陳宮様!頭をお上げください、敗軍の将に頭を下げる必要などありません。

貴方様が部下を大事にすることは良くわかりました、この牽招、わずかながら陳宮様のチカラになりたいと思います。」

「ありがたい!」

俺は牽招の手を取り喜ぶ。


「ようこそ陳宮軍に。」

喜ぶ俺の横で張郃が牽招に声をかけていた。

「陳宮様は変わった御人だな。」

「俺も思うが、悪い主じゃないぞ。」

「それはよくわかる、陳宮軍が強い訳だ。」

「これからはお前も味わえるさ、なにすぐに慣れる。」

張郃は嬉しそうに肩を叩く。

「まずはお前より手柄を立てて出世してやるからな。」

「おい!ちょい待てよ!」

牽招と張郃、袁紹からの寝返り組が活躍するのは少し後の事であった。

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