第168話 袁尚軍
「袁譚兄上が負けているぞ!」
袁尚は崩壊する袁譚軍を布陣した高台から望んで大笑いしていた。
「袁尚様、お味方の敗戦を喜ぶのはどうかと思います。」
「そうだな、これは私の失態だ。」
口でこそ謝罪するものの、顔のニヤケ具合は止まっていない、忠言した逢紀はため息が漏れる。
「袁尚様、他の者に気づかれたら面倒臭い事になりますのでどうか自重なさってください。」
「すまんな、だがどうしても顔が弛んでしまう。」
家督相続のライバルでもある、袁譚の失態は袁尚にとって最高の喜びであり、戦に勝つ以上の喜びを感じていた。
「袁尚様、これから我らも戦になります、袁譚様が破れた今、あの敵も我らに向かって来るのですぞ。」
「ならば一度退くぞ。」
「えっ?」
「ここで戦を終えれば袁譚兄上の失態で大敗北したことになる、我らの罪とはなるまい。」
「ですが、この地を明け渡すおつもりですか!」
「それも兄上の失態のせいだ、まあ一時預けて、父上の差配で再び取り返せばよい。
全軍に退却の合図を出せ!」
「袁尚様!」
逢紀は止めるものの袁尚は全軍に指示を出し、引き上げ始める。
「審配様、袁尚様が引き上げ始めました。」
「なっ!何をなさるつもりだ!すぐに伝令を送り留まるように・・・
いや、もう遅いか。」
審配は一度退き始めた軍が再び戻っても戦にならないと感じる。
「退却だ、我らも退くぞ!」
審配が指揮する1万で袁譚軍を破り勢いにのる陳宮軍を押し止める事は難しい、更に袁尚が退いた事により更に高順の軍が向かって来る、そうなれば審配の軍などひとたまりもない、審配は仕方なく退却の指示を出す。
「張郃、手柄を立ててこい、騎兵を率いて戦もせずに逃げる腰抜けの背中を引き裂いてやれ。」
「おう!」
「全軍、突撃だ!」
高順は退却を始めた袁尚軍に突撃を開始する。
「遼来々!!」
張郃軍は遼来々、張遼が来たと叫びながら袁尚軍に襲いかかる。
「ひぃぃぃ!!く、来るな!来ないでくれ!」
その言葉に散々追い回された旧袁譚軍の者は駆け足で逃げ出していく。
元々退却の為に後ろを向いていたのである、敢えて踏みとどまろうという気は無かったのだ。
「防げ!」
殿が崩壊する中、袁尚の将として従軍していた将、牽招が必死に殿を努めていた。
だが、牽招直下の部下は踏み留まり戦うものの、他の兵士の逃亡が収まらない。
「牽招殿、部下を思うなら降られよ!」
張郃は顔見知りである牽招に降伏を促す。
「張郃殿、そういえば陳宮に寝返ったのだったな。」
「捨て駒に使われた以上忠誠に値せぬ、それより牽招殿降るがよい、お主ならもうどうあっても戦が覆らぬ事は気付いているだろう?」
「たしかにな・・・
俺が踏み留まり、迂回してでも攻めに移ってくれればとも思ったが、ここらが潮時だな、張郃降るから部下の命、いや待遇を保証してくれ。」
「陳宮様は捕虜を辱めるような真似はしない、武器さえ捨ててくれたら相応の待遇を約束する。」
「全員、武器を捨てろ、俺達の敗けだ、絶対に争うな。」
牽招は自身も槍と剣を捨て丸腰になる。
その姿を見て部下達も武器を捨てた。
「牽招殿、取りあえず高順殿の所に行ってもらいたい、おい、案内せよ。」
「おい、縛らなくていいのか?」
「それ相応の待遇と約束しましたから、高順殿にもしっかり伝えてくれ。」
張郃は部下に牽招を預けて、自分は追撃に戻る。
「こりゃ勝てない訳だ。」
張郃の器の大きさに感嘆するとともに、そのような漢を捨て駒にし、見限られる袁紹軍の行く末が見えた。
今降ったことは間違いでは無いと感じるのであった。
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