第167話 趙子龍

「私の武勇もお見せしないとな。」

先陣をきる趙雲は目にも止まらぬ槍の速さで敵先陣を始末していく。


「な、なんなんだ、あれは・・・」

「おい見ろよ、あれは公孫瓚の所にいた趙雲・・・

常山の趙子龍じゃねえか!なんで曹操軍にいるんだ!」

「私を知っている者がいるようですね、それは光栄ですが、これも戦の習い、我が前に立った事を後悔しなさい。」

趙雲は槍の届く範囲全てに突きを放ち、敵の命を奪っていく。

「ば、化け物だ、こんなやつに勝てる訳が無い。」

趙雲を知るものは後ろに下がる、かつて北方の雄であった公孫瓚と袁紹の戦の中で趙雲は公孫瓚軍に属して袁紹軍を縦横無尽に暴れまくっていた。

軍を率いるのでもなく、ただ単騎で暴れる趙雲を誰も止めることが出来なかったのだ、その戦を知るものにとって趙雲は畏怖する対象であり、到底討ち取れるなど思えなかった。



「今日の私は調子がいい、さあもっとかかってきなさい。」

「や、やってられるか!趙雲だけじゃない張遼も相手にはいるんだ、俺はまだ死にたくない!」

「私達だけではありません、あなたが立つ地面は大丈夫ですか?

火がつくのでは?」

「ま、まさか!」

兵士達の顔色は悪い、袁譚軍が燃やされた炎が記憶に呼び起こされる。


「お、俺は燃え死ぬなんて嫌だ!」

「俺だって死にたくない!」

前線にいた南皮で逃げ帰った者達は慌てるように戦から逃げ出していく。

それに釣られて審配が連れてきた援軍も戦場から逃げ始める。


「お前達何処に行く!戻れ戻って来い!」

袁譚以下、各将が叫び兵を止めようとするが一度逃げ始めた兵を留めることは難しい、ロクに戦う事も無く軍が崩壊していくのだ。


「貴様ら戻らんと死刑にするぞ!」

袁譚は崩壊する兵士に剣を向ける。

しかし、兵士は袁譚を避けるように広がりながら逃げ出していく。

「きさまら、止まれ止まらんか!!」


「貴殿が大将と見た、違いないか?」

袁譚が騒ぎ続ける事で趙雲にアッサリ気づかれ接近を許す。

「なっ、何故ここに!」

「軍が崩壊すれば将の元に来るも容易い。」

「だ、だれか、あの者を討て!」

袁譚の声に混乱する軍の中で唯一袁譚の為に本陣に戻ってきた将、菅統が袁譚の前に立つ。


「袁譚様お逃げください、ここは私が時間を稼ぎます。」

「菅統!助かったぞ!趙雲を討つのだ!」

「袁譚様、お逃げください!」

槍を構え、趙雲の前に立つものの菅統の額には大粒の汗が出ている。


趙雲から放たれる威圧は尋常のものではない、菅統自身それなりの武勇はあると自負していたが、趙雲と対峙してことで自分の武勇など、微々たるものなのだ。


「菅統、お前がいればなんとでもなろう!兵よ、趙雲を囲め!」

袁譚は菅統の武勇を知っている、自分より遥かに強い上、周りに兵士も充分にいる、今なら趙雲を討てるのではないか。


「袁譚様!お逃げください!!早く!」

菅統は意地で三撃を耐えた、一撃は槍で受け、二撃は左腕で、三撃目は胴体を貫かれていた。


「貴殿の覚悟に敬意を。」

趙雲は腕前の差に気づきながらも忠誠の為に命をかけた菅統に敬意を払う。


「か、かんとう・・・」

袁譚は倒れゆく菅統を目の前に呆然とする。


「折角の忠誠だったが・・・

無駄のようだな。」

趙雲は袁譚に槍を向ける、菅統が命をかけて稼いだ時間を袁譚はただ見るという事に使ってしまっていた。

「ま、まて!話し合いをしよう、そうだ、私に仕えよ、さすれば今の何倍もの報酬と身分を与えてやる。」

「・・・戦場で命乞いなど見苦しい。

だが菅統殿に敬意を払い、この場で命は取りませぬ。」

「なら!」

「捕縛致せ、陳宮様への土産と致す。」

趙雲は袁譚を捕虜にし、堂々と帰環するのであった。

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