第230話 招かれざる客

「袁煕が領内に現れ保護を求めている?」

高順からの使者に俺は首を傾げる、袁煕は幽州、の薊にいるはずだった。

間には袁尚も高幹もいる、何があればこちらに流れてくるのだろう。


「どうする斬るか?」

張遼は当然かのように聞いてくる。

「待て、袁家とは停戦中だ、仕掛けて来ているならまだしも保護を求めているなら斬る必要は無い。」

「甘いな陳宮、まあお前の判断だ従うさ。」

「ありがとう張遼。

あと軍を用意してくれ、状況次第で戦になるだろう。

俺は一足早く平原に向かう。」

「わかった準備をして後を追う。趙雲、張郃、護衛として陳宮を守れ。」

「「はっ!」」


俺は手勢とともに平原に向かう。

「袁煕殿、はじめましてですな。」

「この度は受け入れていただき感謝致します。」

「袁家の方とは現在停戦中ですからね、攻撃してこないなら敵対するつもりはありません。

ですが事情を伺ってもよろしいですか?」

「それは私の方からお話致します。」

袁煕の隣に座っていた女の子が話し始める。


「君は?」

「烏桓族、冒頓単于が娘、冒白、袁煕様の妻にございます。」

「袁煕殿の奥方でしたか、私は陳宮と言います、遠路よく起こしくだされた。」

「招かれざる客ということは重々承知しております、ですが我等に行先も無く、仁徳の方と名高い陳宮様のお情けにすがらさせてもらいました。」

「別段仁徳の人と言われた覚えはありませんが、それでも懐に来た者に危害を加えるつもりはありません、事情をお聞かせいただいてもよろしいですか?」

「はい、私達は高幹と戦っている最中、袁尚の攻撃を受け、拠点である薊を落とされてしまいました、北方の烏桓の拠点に戻る事も出来ず、対峙する高幹から逃げ延びるには南下するしか無かったのです。」

冒白が言う通り、南下するのは悪くない手である。

北に行けば袁尚と高幹に挟まれる、南に逃げた時は袁尚と高幹が睨み合う、状況が生まれ追撃が甘くなるだろう、だがそれは逃げれる先があっての事だ。


「冒白殿、南下したということは我々を目指して来たと思われるが我々とは面識も無かったはず、害されるとは思わなかったのですか?」

「陳宮様なら我々の使い道もあるのではないですか?」

「それは利用しても構わないということかな?」

「それぐらいしか渡せる物がありませんので。」

「わかった、客として遇しよう、みんなも聞いた通りだ。」


「冒白、お前何を勝手に・・・」

袁煕は不満そうに、だが周囲に聞かれないよう小さな声で冒白を責める。

「袁煕様、腹をくくってください、袁尚や高幹に討たれてもいいと言うつもりですか?」

「そうは言っていない、だがこの軍のトップは私だぞ、決定権は私にあるはずだ。」

袁煕はそう言うがここまで付いてきた兵士の多くは烏桓族である、既に軍の決定権は冒白が握っているのだが、兵士をロクに見ない袁煕にはそれがわかっていなかった。


「袁煕様、これも生き延びる為にございます、陳宮様なら袁尚にも高幹にも打ち勝つ事が出来るでしょう、その時に功があれば袁家の再興も叶います、どうかここは自重してくださいませ。」

冒白は説明するものの、袁煕はどこか納得していない表情を見せていた・・・

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