第128話 許昌
許昌では夏侯惇が将軍職から引退し、曹操の相談役に就任していた。
夏侯惇の後は夏侯充が継いだのだが、夏侯惇の時程の命令権は剥奪されていた。
権利を剥奪された夏侯充が騒ぐかと懸念されたが、夏侯充は思いのほか静かであった。
実直に軍の再編成に取り組みながらも時間があれば曹丕の下に顔を出す姿は許昌に住む文官達から好評価であった。
「夏侯充、いつもすまない。」
曹清が姿を見せなくなり、曹丕が信じるのは夏侯充が一番になっていた。
「いえ、私に出来るのは曹丕様に世情をお知らせするぐらいにございます。」
「忙しい中、時間を作り来てくれていることを嬉しく思う。」
曹丕の機嫌は夏侯充と話す時が一番良くなっていた。
「それで曹清様は未だにお姿をお見せしていただけないのですか?」
「うむ、母上がならんの一点張りでな。
姉上もきっとお寂しい思いをしていると思うと胸が張り裂けそうになる。」
「曹丕様からお会いになられては如何でしょうか?」
曹丕は自室から出ようとしない、曹清に自分一人で会いになど行こうとしていなかった。
「しかし・・・」
「曹丕様、私が付き添いますから勇気を出してみましょう。」
「夏侯充が一緒なら・・・」
曹丕は夏侯充から差し出された手を握り、部屋から出るのだった。
「姉上に会いに来た、取次げ。」
曹丕は侍女に命じて取次を頼む。
「申し訳ありません、曹清様はただいま誰とも面会をしない事にしておりますれば、どうかお引取りを。」
侍女の翠嵐は曹丕を追い返そうとする。
「侍女の分際で曹丕様に失礼であろう!」
「私は主人である曹清様より、どなたの面会も断るように命じられております。」
「無礼な!曹丕様は曹操様の後継者にあたる人物、それを門前払いにするとは!
許せん、この夏侯充の名においてお前の首をはねてやる!」
「首をはねられたとしてもお通しするわけには行きません。
せめて卞氏様のご許可を願います。」
翠嵐は卞氏の名を出すのだが、この日は運の悪いことに曹操の離縁した前夫人、丁に会いに行っており、屋敷には不在であった。
「母上は留守ではないか!それならば私の命令で充分の筈、せめて姉上に取次げ!
さもなくばその首をはねてやる!」
曹丕も夏侯充の勢いに合わせて声を荒げる。
その姿を見かねた他の侍女が曹清に伝える。
「曹丕と夏侯充が来て、押し止める翠嵐の首を斬ろうとしているですって!」
「はい、私共ではあの御二方を止める事は出来ず・・・」
普通の侍女に曹操の子、曹丕と将軍である夏侯充を押し止める事は出来ないだろう。
だが、このままでは翠嵐が斬られかねない。
自分を子供の頃から尽くしてくれている翠嵐を斬られる訳にはいかない。
曹清は意を決する。
「仕方ありません、お会いするので少し準備に時間をもらってください。」
侍女は二人に伝える為に急ぎ部屋を出ていく。
「・・・申し訳ありません。」
曹清は謝罪の言葉を口にして人と会うために身支度を整えるのであった・・・
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