第129話 曹操邸
「陳宮様、ようこそ許昌へ。」
門番が緊張しながら出迎えてくれる。
名前を名乗ったらすごく丁重になっていた。
たぶん曹操から指示が出ているのだろう。
「陳宮様、お屋敷にご案内致します。」
「いや、俺の屋敷は無いんだ、知り合いの家に行くから案内は構わない。」
「えっ?しかし、新しい御屋敷が・・・」
門番は動揺している様子だが俺はあえて無視をする。
「大丈夫だ、張郃行くぞ。」
俺は張郃を連れて張遼の屋敷に行く。
「遠路遥々お疲れ様です。」
張遼の屋敷には先に連絡が行っており、俺達を出迎えてくれる。
「張郃はゆっくり休んでいろ、俺は少し曹操に挨拶に行ってくる。」
「陳宮様!それこそ私が同行致します!」
「非公式な会談ってやつだ、こっそり行ってくる、なに招いておいてこっそり始末なんてしないさ。」
「なりません!」
俺は張郃を説得することは出来ず、二人で曹操がいる宮殿に向かう。
「陳宮様、曹操様がお会いになります。こちらへどうぞ。」
面会を希望するとすぐに俺と張郃は曹操の居住区である奥の屋敷に通される。
曹操としても内密に話したい事もあるのだろう。
俺達は案内されるまま奥へと進んでいく。
「陳宮様、油断無きよう。」
「張郃、警戒し過ぎだ、こんなところで狙いはしないだろう。
風評が酷くなるだけだからな。」
「しかし!」
「落ち着け・・・」
俺は廊下を進む中、池の対岸でお茶をしている曹清の姿を見つける、だがそこには若い男と一緒に話しており、笑顔を見せるその姿は楽しそうにみえた。
ここは曹操の宮殿内、中の者が会おうとしなければ面会など出来ない。
つまり、曹清が会おうとしたという事か、さすれば楽しそうな笑顔も納得は出来る、出来るのだが・・・俺は胸の奥がズキッと鈍い痛みを感じる。
「陳宮様如何になされましたか!」
「いや何でもない、ただ事実を突きつけられただけだ、行くぞ。」
俺は張郃が曹清に気付かないうちに奥で待つ曹操に会いに行くのだった。
「陳宮、よく来てくれた。」
「ああ、俺に敵対する意志は無い、それを示す為にも来ないとな。」
「わかっている、俺にしてもお前は大事な存在だ。」
「それはいいとしても、曹清様の気持ちを大事にしろ。
好きな奴と結婚させてやれ。」
「陳宮何を言っている?」
「俺は女の事で裏切ったりはしない、お前が天下を取ることにチカラを貸しているだけだ。
それに曹清様には命を救われた恩もある、自由な恋愛をさせろ。」
「ああ、お前は夏侯充との噂の事を言っているのだな、手紙に書いた通り、あれは誤解だ。
まあ、曹清の認識が甘い所もあったせいでもあるが、今は誰にも会わず身を正しているんだ。
それも全てお前への誤解を解きたい一心なんだぞ。」
曹操としては陳宮から話が出たのは幸いである、曹清が反省して自ら謹慎して身を正していると聞けばお人好しの陳宮なら同情を誘えるだろう。
「謹慎?誰に会わず?何を言ってる?曹清様は今そこで男と話していたぞ。
お前が締め付けるから心にも無いことを言ったのだろう。
たしかに戦略的に俺を取り込もうとしているのはわかるが無理に縁戚になる必要は無い。
今回の一件で仲間を抑えるのも大変なんだ。」
「・・・な、なに?」
曹操の表情が変わる、たしかにこの半年間曹清は自室に籠もり、最低限しか外に出ていない。
それが男と会っている?
曹操には何が起きてるのか把握出来ていなかった。
「そんな事より戦略について聞きたい、これからどう動くか教えてもらいたい。」
「そんな事ではないのだが・・・」
「これ以上俺の気持ちを荒そうとするな、一応俺も一人の男だ、何度も女に騙されるのは性に合わない。」
「騙すなどそんな事は・・・」
「曹操、戦略を言え!くだらん政略などいらん。」
俺は呆けている曹操にカツを入れる。
まったく、フラレた男をいつまでもイジるとは性格の悪い奴だ。
俺がキツく言った事もあり、建設的な話を始める。
「ああ、すまん、このことはおいておくか・・・
まずは袁紹を何とかするつもりだが、兵が足りん。暫くは防戦になりそうだ。
まあ向こうも兵糧が足りんみたいだからな、互いに動きは小規模になるだろう。」
曹操は心ここにあらずといった感じだがちゃんと軍略を話し合う。
地図を広げ互いに意見を擦り合わせる。
別れ際に・・・
「陳宮、曹清がお前の事を想っているのは本当だ。
今日お前が見たのは何かの間違いだと思っている。
今一度チャンスをくれないか。」
「・・・曹操、お前が話せば曹清様の意志とは関係なくなるだろ。
これ以上縛り付けるような真似をするな。」
未だに言い続ける曹操に俺は少し疲れを覚える。
家長の曹操が命じれば曹清とて想いは別に俺に抱かれもするのだろう。
だが、命の恩人である曹清に対してそれは不義理である。
俺は曹操の命令で望まぬ俺に嫁ぐような真似はしてほしくなかった。
「違う!そうじゃない!頼む!」
「わかった、だがこれで最後にしてくれ。
何度もフラレた事を自覚するのは流石に辛い物があるからな。」
俺は張郃を連れて家路に着く、
・・・心には痛みを伴っていた。
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