第216話 逃げ場は・・・

「曹休!!」

庭を駆けた先に曹休がいた。


「夏侯充、曹清様は?」

「・・・」

夏侯充の表情が歪む。


「その様子だと失敗か・・・」

「クッ!次の機会に、今はひとまずこの場を離れないといけない、曹休避難場所に案内してくれ。」


「・・・次の機会は無い。」

曹休は夏侯充の腹に剣を刺す。

「ぐっ!曹休何をする・・・」

夏侯充は刺してきた曹休から距離を取る。

「お前は曹清様を誘拐しようとした男としてこの曹休が始末するのだ。」

「な、なんだと・・・」

「なに、お前が得ようとしたものは私が必ず手に入れてやる。

お前は俺の手柄として・・・死ね。」

曹休は夏侯充に斬りかかる。


「まだ、まだ死ねない・・・

俺は生きるんだ・・・」


夏侯充は後ろにあった池に飛び込む。

「ぬっ!逃がすか!探せ、絶対に逃がすな!」

曹休達近衛兵は鎧を着ているため即座に飛び込み追う事ができなかった。

その為に夏侯充はこの場を離れる事に成功する。


「はぁはぁ・・・」

夏侯充は池に潜り泳ぎ続け辿り着いたのは以前曹清とお茶をした庭であった。


夏侯充は池から上がり、柱にもたれかかる。

「あの時は楽しかったな・・・」

腹から血を流しながら曹清が笑いかけてくれている姿を思い出す。


自分に向けて笑いかけてくれた表情に嘘は無かったはずだ・・・


夏侯充としては曹清を助けたかったのだ・・・

もう一度あの笑顔を取り戻したい、陳宮のところに嫁ぐ際に見たあの曇った表情を晴らしたいのだ・・・ 


「まだ死ねない・・・」

夏侯充は血を流しチカラを失いつつある身体を引きずるように曹丕の部屋を目指す。


追われる自分を助けてくれそうなのは曹丕しか思いつかなかった。


その頃曹丕は曹純に連れられ部屋に軟禁されていた。

「曹丕様、くれぐれもこれ以上浅慮な真似はなさらぬように、おとなしくしていれば後日に許される事もあるでしょう。」

曹純は長年育つ姿を見てきた曹丕に親愛の情を持っていた。

今回の不始末は許されるものでは無いが、曹操の怒りが収まれば多少なりの減刑を求める事は可能だろう。


「曹純、父は許してくれるのか・・・」

「わかりませぬ、ですがこれ以上怒らせる真似は控えねばなりません、曹操様のご命令を粛々とこなす事が肝要かと思います。」

「曹純は私の味方か?」

「私は曹家に仕える者、曹丕様の敵ではございませぬ。」

曹純は敵では無いと伝えたのだが、曹丕にとって欲しいのは味方であった。


「曹純、私の味方になってくれぬのか?」

「私にとって曹操様のご命令が最優先にございます。」

曹純は曹操の意志に逆らってまで曹丕に尽くすつもりは無い、親愛の情があろうともそれはかわらないのだ。


「曹丕様、私は会場警備に戻りますがくれぐれも浅慮を止め、部屋に謹慎なさってください。」

「・・・わかった、父に上手く伝えておいて欲しい。」

「なるべくご機嫌の良いときにそれとなくは話してみようとは思います。」

曹純はそう言い残し曹丕の部屋をあとにするのであった。


夏侯充がやってきたのは、それからしばらくしてからの事だった。

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