第215話 夏侯充逃走
逃げる夏侯充の先に典満が許華と共に立っている。
「典満、手を貸せ!共に陳宮を始末するぞ!」
夏侯充は友人でもある典満の力で追手の成廉を倒し、陳宮を始末しようと考えるのだが・・・
「ふん!!」
典満は駆けてきた夏侯充をそのまま殴り飛ばす。
「へぶぁ!!」
夏侯充は庭に向かい吹き飛ぶ。
「典満何をする・・・
なぜ俺を殴る。」
「悪いが俺に陳宮殿を始末する気など無い、たとえ友の言葉と言えど曹操様のご意思に逆らうような真似は二度とせん!」
典満は陳宮にケガをさせた一件から夏侯淵にしごかれ、許褚の下で父典韋の思いとその覚悟を叩き込まれていた。
その典満にとって友と言えど曹操の為にならぬ者は敵である。
曹操が認めた陳宮を始末しようなどという誘いに乗るつもりなど欠片も存在しなかった。
「友を裏切るのがお前の義侠心か!」
「何とでも言え、俺は父に恥じぬ生き方をするのみだ!」
「そうです、典満様は忠誠心で動くのです。
それに友と言うならなぜ貴方は私の主人、典満様の言葉を聞こうとしないのですか!」
許華は口下手な典満の代わりに夏侯充を責める。
「それは!」
「貴方が典満様を見下しているだけでは無いのですか!」
「ちがう、典満より、俺の方が頭が回るから、俺の言う事に従っていたほうが・・・」
「それを見下していると言うのです!一方的に命令に従う関係を友とは呼びません!
貴方は典満様を馬鹿にし、都合のよいように利用していたに過ぎない!
私は貴方を軽蔑します!」
許華の啖呵に周囲で聞いていた者達から拍手が起きる。
「見事な者だ、典韋殿も良き嫁が来たと喜んでいるだろう。」
「うむ、目出度い話だ。」
重臣達が多くいる場で許華の言葉は典満の嫁として認識されるに充分であった。
「・・・くそっ!」
夏侯充は庭の奥の暗闇に向かい走り出す。
許華の言葉を否定するのは簡単なはずなのだが、何故か言葉を発する事ができなかった。
裏切ったのは典満だ・・・
あいつは曹清様の幸せより保身をはかり、美少女に心を奪われ志を無くした愚か者だ・・・
頭によぎる言葉を口に出そうとしたのだが、今の自分の姿はどうだ。
戦に負け、捕虜となり・・・
程昱の後ろ盾ももう無理だろう。
父は・・・
今の俺をどう見る、父が持ってきた縁談を破談にした・・・
イヤ、それより陳宮と争うなと言われた事を無視している。
父の冷たい眼が想像できた・・・
夏侯充は思わず身が震える。
父に見捨てられる・・・
夏侯充にとってそれが今一番の恐怖であった。
父、夏侯惇は夏侯充にとって誇りである。
曹操の信任厚き立場で有り、家臣を纏める家宰、曹操に意見を言える存在だ。
自分もそうなりたい、そうなるはずだった・・・
曹丕と自分は信頼関係にある。
このまま曹丕が後を継げば必ず自分は次世代の夏侯惇になるれるのだ。
・・・なれるのか?
典満に殴られ、庭で転がった際に泥まみれだ。
こんな無様な姿を晒す者が本当に父のようになれるのか・・・
夏侯充は暗闇を走る。
その先に何があるかもわからずに・・・
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