第214話 一騎打ち

「夏侯充、それならば私と一騎打ちをしようではないか。」

俺は夏侯充が曹清を離すしかないように一騎打ちを申し込む。


「一騎打ちだと・・・」

「よもや文官の俺との一騎打ちが恐ろしいと言うのではないだろうな。」

「ふん、お前など恐ろしくもない、いいだろう、俺の剣で白黒をはっきりさせてやる。」

「陳宮様!」

趙雲は俺を止めようと声を出すが俺は手で制する。

「曹清様を救うには仕方ない、成廉手を出すなよ。

俺の武勇を信じろ。」

「わかってるよ。」

成廉は手をヒラヒラと振る。


「初めてお前を見直したな。」

夏侯充はニヤリと笑う。

剣の構え方から見て陳宮の腕前はたかが知れている、万に一つも撒ける恐れなどない。

曹清とて陳宮が死ねば目を覚ますだろう。

夏侯充にとってすれば望ましい未来が待っているように思えた。


「さて、合図はどうする?」

「陳宮、お前からかかって来るといい。」

「おいおい、若輩者にかかって行けと言うのか?

おっと、それもそうだな、お前は俺が恐ろしいのだろう?

見るからに手が震えているからな。」

「ふざけるな!この俺がお前如き恐れる訳が無い!

せめてもの慈悲で先手を譲ってやろうと思ったが必要ないな!

さっさとあの世に行け!」

怒りに震えた夏侯充は一気に俺との間合いを詰めてくる。


「趙雲!曹清様を助けろ!」

俺は様子を見ていた趙雲に命令を出す、少し困惑しているようだがすぐに動き出していたのが見える。

「貴様!!こうなればお前を殺してやる!」

既に離れてしまった夏侯充とすればすぐに戻っても前に走り出した趙雲の方が早い。

曹清を失った夏侯充にしてみれば俺を討ち取るか人質にしてこの場をやり過ごす選択が最良に思えるのだが・・・


「残念。」

夏侯充が斬りかかる手前で成廉が横から割って入り夏侯充の剣を弾き飛ばす。

「なっ!卑怯な、一騎打ちに手出しをするとは、武名を貶す事になるぞ!」

「陳宮のな、こいつにそんな落ちる武名は無い。」

「な、なんだと・・・」

「成廉ありがとう。よく気付いてくれたな。」

「当たり前だ、お前の武勇なんて信用出来るか。」

成廉は笑って答えるが、そこには一緒に戦ってきた者同士が分かり合う信頼関係が存在していた。


「さて夏侯充、人質はいなくなったぞ、このまま降れば、曹操に引渡して終わりにしてやる。」

俺は曹清を助けて出した以上、夏侯充の始末は曹操に任せるつもりだった。


「この俺がお前に降伏するだと・・・」

「袁紹にアッサリと降伏するお前だろ、面倒臭いからさっさと降れ。」

成廉が茶化すように言うが実際夏侯充にとる手段は残されていない、おとなしく降れば曹操の事だ夏侯惇の息子の命までは取らないだろう。


「この私がお前に降る事などない!

おぼえていろ!」

夏侯充は俺とは反対方向に走り出す。

「待て!」

成廉は夏侯充を追いかける。


「曹清様、夏侯敬ご無事ですか?」

「はい、陳宮様。」

曹清は俺に抱きついて助かった喜びを感じている。

「私に力があれば・・・曹清様、陳宮様、申し訳ありません。」

「夏侯敬、君はよくやってくれた、短刀のみで近衛兵を相手になど出来るものではない。

君のおかげで曹清様が連れ攫われずに済んだのだ、もっと誇りに思うべきだ。」

「そうですよ、夏侯敬。

貴女のお陰で無事に陳宮様のところに戻れたのです。

私はこの恩を生涯忘れません。」

曹清は夏侯敬の手をとり感謝を伝える。


「勿体無いお言葉・・・」

夏侯敬は感動し涙を流すのであった。

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