第126話 曹彰帰還
曹彰が徐州に帰って来た。
てっきり戻って来ないと思っていたので俺は少し驚いていた。
「曹彰こっちきて良かったのか?」
「先生、帰って来るところは此処ですよ。
それにまだ学ぶ事がありますから。
ご迷惑でしたか?」
「いや迷惑なんかじゃないよ、ただね・・・」
俺は現状を考える。
張遼を筆頭に仲間達は曹清が裏切ったと言って憚らない、俺としてはこんな見た目だしフラレても仕方ないと思っているのだが、張遼達からすると許せない裏切りなのだそうだ、俺がいくら宥めても聞いてくれそうに無かった。
まあ、怒りのせいか軍の再編成及び内政に至るまでみんなの頑張りが凄いので悪い効果ばかりではない。
俺としてもフラレた事を俺の代わりに怒ってくれて有り難いと言う気持ちもあり、仕事をしてくれる以上、強く言うことはなくなっていた。
「さて、曹彰が来たという事は曹操は俺が行かなかった事を見逃したということか?」
俺は曹彰にたずねる。
「はい、実際父に先生を討つ力はありませんから。」
「無い事はないさ、あいつならやる気にさえなれば何とでもする。
だが、討つ気はなかったか・・・」
俺は曹操から独立する可能性も考えていた。
張遼達はそれに備えて動いているところもあるし、軍事、内政共に曹操に頼らない体制を整えつつあった。
「先生、一応父上から書状を預かってきております。」
曹彰は渋々ながら書状を手渡してくる。
「曹操からか、なんて書いてあるのかな?」
俺は書状を読み始める。
そこには先日の戦の謝罪から始まり、曹清が不貞を行っていないことを綴ったあと、噂になっている事を事細かに伝えてきており、そしてそれが全て誤解で有ることを書き連ねており、婚約は継続中との事が書かれていた。
「はぁ・・・別にフルならフルでそっとしておいてくれないかな・・・」
俺は気が滅入る想いであった。
そもそも、曹清に会う気があればいくらでも会える機会はあっただろう、それを曹丕の看護で時間が無かったとか、面会を断ったのは侍女の仕業とか書かれても今更感がある。
俺が徐州に向かう事は曹操の命令だったのだ、その後も囮となれと命令書は届いたが曹清から手紙は一通も届いていない。
その事もあり俺は徐州に向かった時点で終わったと思っていたのだが・・・
「陳宮、曹操はなんと?」
「ああ、曹清の不貞の噂話は誤解だって。
あと婚約は破棄されていないらしい。」
張遼が聞いてきたので俺は書状をそのまま渡す。
俺自身、曹清の噂話を耳に入れないようにしていたのだが、それでも入ってくる物はある。
相手が夏侯惇の長男で夏侯充、俺の屋敷になるはずだった屋敷は夏侯充の屋敷になった事ぐらいだったが。
俺としては夏侯楙の裏切りから立ち位置を失った夏侯惇と縁戚になるのは間違った戦略では無いと思う。
夏侯惇はそれ程大事な家臣の要なのだ。
それに長男は美男子だとも噂で聞いていた。
・・・俺とは随分と違うしな。
屋敷にしても曹清と結婚しないなら広い屋敷などいらない、許昌にいる間は執務室で充分だし、必要なら張遼の屋敷に転がり込めばいい。
・・・だからね、目の前でキレているみんなを一歩引いた目で見ている。
「曹操め!どれほど陳宮を馬鹿にすればすむのだ!」
「なんだこの言い訳は!どう考えてもおかしいだろ!」
「夏侯惇が使い物にならなくなったから、婚約を復活ってか!ふざけるな!」
「父上は愚かだ!不貞の事実を捻じ曲げるな!」
あのね、曹彰くん、君は曹清の弟だろ?少しは擁護してもいいんじゃないかな?
「みんな落ち着け、俺はなんとも思っていない、それに考えてみろ、俺と曹清様が釣り合うか?
歳も見た目も釣り合わないだろ?
そんな事より、曹操と敵対してどうする?
袁紹、曹操、孫権に囲まれているこの地でどう戦う?」
「ぬぅ!」
高順、張遼あたりは戦略にも明るい、独立したところで苦境なのは見えているだろう。
それならば、曹操麾下の状態のほうがまだマシに感じる。
「それにだ、曹彰がここにいるということは決して俺達を軽く見ているという事ではないだろう。」
「はい、それはもちろんです。
曹清の事は父上の意志では無さそうでした。
父上は先生を軽く見てはおりません。」
曹彰は先程まで興奮していたが一度深呼吸して落ち着いてから話始めた。
曹彰の話によると夏侯充との事は曹操の預かり知らぬ話であり、曹清が引き起こした事だとハッキリと伝えてくる。
もう少しオブラートに包んでくれたら俺の心は安泰なんだけどなぁ・・・
ハッキリと乗り換えられた話を聞かされるのも辛い事を知った瞬間でもあった。
「曹彰落ち着いて話すことは大事だがそこまでで言い、みんなに言っておく、俺が侮辱される事は構わない。
大事な事は皆の行く末だ、一時の感情に任せて行動してはいけない。
曹清様の件もそうだ。
曹操が婚約破棄をしていないと言うならそれを受け入れればいい。」
「陳宮!!」
「大事な事を見失うな、いいか!」
高順を筆頭に家臣達皆が悔しそうに涙を流していた・・・
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