第224話 側室甄氏

「それでそこの二人の女性は?沮鵠殿の奥方か?」

「いえ、違います、こちらの方は袁紹様の養女甄氏様とその侍女にございます。」

「甄氏にございます。」

「侍女の美鈴と申します。」

二人の女性が頭を下げる。

「袁紹殿の養女か、何用でこちらまで?」

「私は袁紹様に陳宮様の側室になるよう言われて参りました。

どうか末永くお側に仕えさせてくださいませ。」

「側室!!

いや、袁紹殿が亡くなられた今政略結婚に縛られる必要も無い、甄氏殿程の美貌があれば国元に帰れば側室と言わず、正室にもなれるでしょう。」

「・・・いえ、帰る国がございませぬ。」

「それはどういう事か?袁紹殿は亡くなられたが袁煕殿、袁尚殿は健在だぞ。」


「恥ずかしながら、私は袁煕様の正室として迎えられる予定で婚約していたのですが、正式に妻として迎えられる前に袁紹様の命令で白紙に戻され養女として嫁ぐ事を命令なされました。

今、国に帰っても袁煕様の元には烏桓族からの娘が正室として迎えられ、袁尚様の元に行けば袁煕様への嫉妬から私の身がどうなるかわかった物ではありません。

何卒お側において陳宮様の寵愛を賜りたいのでございます。」

身の上を聞くとかなり可哀相な話である、袁家に迎えられる所を白紙に戻されたのなら国元でも居場所が無いのだろう、それに見るからに名家の娘である、誰とでもという訳にはいかないだろう。


「張遼、どう思う?何とかならないか?」

「何とかしよう、幸いこの者達に不審な点は無かった、この件は俺に任せてもらってもいいな。」

「流石張遼だ、頼りになるな。」

「ああ、任せておけ。」

張遼は不敵に笑っていた。



その夜、俺は張遼が甄氏をどうしたのか少し考えていた。

甄氏程の美女、いやまだ美少女か。

まああれ程の美貌なら引く手あまただろう、何なら仲間の誰かの妻にという道もあるかも知れないな。

俺は張遼に任せたのだが、仲間の誰かの妻というなら俺が仲人をしても良かったのかも知れない。


そう思いながら自室の寝床に入る。

「あん、陳宮様いきなりお触りになられるのは・・・わたくし初めてなものでしてどうかお優しくしてくださいませ。」

「・・・甄氏さん、なんでここに?しかも裸!」

「張遼様がこちらで裸で待っていたら陳宮様がお越しになると。」

「張遼!!はかったな!

甄氏さん、君には他の道もある、自分の身を犠牲にする必要は無い。」

「張遼様の言う通りですね、陳宮様、私達女性は強い御方に身をゆだねたいのでございます。

陳宮様は英傑とも呼ばれる御方、その御方にその身を捧げるのは女の誉れにございます。

どうかそのお情けを私にいただけませぬか?」

「しかし、甄氏さんと私の歳を考えましょう、貴女ならもっといい男も・・・」

「ふふ、夏侯敬さんの言う通りですね、それなら。」

甄氏は一口何かを飲んだと思えば即座に俺にキスをし、その何かを流し込んでくる。


「なっ、この味は・・・」

「夏侯敬様がくださった媚薬にございます、わたくしも飲んでしまいましたので陳宮様に鎮めていただかなければ、痴女として生きる事になってしまいます。

どうか私を救うと思いその情けを・・・」

甄氏は俺を抱きしめてくる。

その花のような匂いで俺の理性は失わされていくのであった・・・

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