第179話 思わぬ復縁

黄蓋が孫権の所に帰ったあと、俺は袁尚と一席を設けていた。

「袁尚殿のようないずれ歴史に名を残す方と同席出来るとは光栄にございます。」

「わはは、陳宮殿は正直者ですな、私が父の跡を継いだら、悪いようにはしませんぞ。」

袁尚は持ち上げられ上機嫌で酔っている。


「陳宮様・・・失礼しました。

来客中でございましたか。」

部屋に曹清がやって来た。


「おお、美しい方ですな、陳宮殿の息女ですかな?」

袁尚は曹清を上から下へと眺めている、その目は欲望に満ちている。

「いえ、彼女は私の妻にございます。

曹清様、こちらは袁紹殿の子息、袁尚殿です。」

「申し遅れました、私は陳宮様の妻、曹清と申します。」

「曹清・・・ということは父親は曹操か?」

「はい、父は曹操になります。」

「この娘がねぇ・・・」

袁尚は曹清を値踏みするように見る。


「陳宮殿、この娘を一晩貸さぬか?」

「袁尚殿?何をおっしゃるのですか?

妻を貸せとはさすがに失礼な言葉ではありませぬか?」

「この娘であろう、陳宮殿を裏切り他の男を咥えていたというのは、それならば貞操などあって無いようなものではないか。

この袁尚が少々躾けてやろう。」

「お戯れを、どのような経緯があれ、妻を他者に貸すつもりはございません。袁尚殿、酒の上での言葉と思い、聞かなかった事に致しましょう。」

「なんだ、陳宮殿は悔しくないのか?

お前を裏切って置きながら素知らぬ顔を顔をしてお前の隣にいるのだぞ、なに、袁家に付けば曹操など気にすることは無い、曹操の娘がヒィヒィいう姿を楽しもうではないか。」

「袁尚殿、曹操がどうとかは関係ありません。

妻を他者に辱めるような真似は道理上出来ませぬ。」

「ぬぅ、面白くないのう。」

「悪い酒のようですな、今宵はこれまでと致しましょう。」

俺は袁尚を寝室に送り、その日はお開きとする。


「曹清様、今宵は私の部屋で過ごしてもらえませんか?」

俺は袁尚の欲に満ちた目を危険に思い、曹清を部屋に招く、一応袁尚には見張りをつけてはいるのだが、万が一何かあってはいけない。

「は、はい。陳宮様が望まれるなら。」

曹清は嬉しそうに微笑む。


その夜、曹清の部屋を探して、袁尚が城内を歩いていた、現在滞在する平原の城は袁尚も勝手知ったる城である、抜け道、部屋の作りなどは記憶してあり、正妻が滞在しているであろう部屋は予想がついていた。


「誰でも咥え込むような女だ、私がスッキリするのに使っても問題無いよな。

くく、曹操の娘か・・・

あの清純そうな顔が私の下で悶える姿を想像するとたまらんなぁ・・・」

袁尚は曹清が自分に抱かれて悶える姿を想像して興奮しきっていた。

「さて、この部屋か・・・

お邪魔します・・・

ちっ、留守か!何処の男の部屋に行ってるんだ!

・・・いや、もしかして俺の部屋に来ている可能性もあるな。

何せ尻軽という噂だからな、俺の溢れる魅力に惹かれて来ている可能性を考えて無かった!

こうしてはおれん、部屋に戻らねばならぬな。」

袁尚は足早に自室に戻っていく。


その頃、曹清は・・・

「陳宮様、お呼びにあずかり光栄です。

・・・もう呼んでいただけないかと、不安に思っておりました。」

曹清は嬉しさのあまり大粒の涙を見せている。

「え、えーと、曹清様?曹清様はお好きな方がおられるのでは?

それに今回こちらにお呼びしたのは・・・」

曹清は俺に抱きついてくる。

「私がお慕いしているのは今も昔も陳宮様だけにございます。

私が考えが至らぬばかりに変な噂を立てられてしまいましたが、信じてください。

私には陳宮様しかいないのです。」

曹清の真直ぐ見つめてくる瞳とその言葉から嘘を感じられない。


「曹清様・・・

申し訳ありません、どうやら私の方こそ曹清様を信じていなかったようにございます。」

「陳宮様が謝ることではありませぬ、私がどれほど浅はかだったかは、卞様から聞かされ自覚したのです。

どうかこの浅はかな私を許してください。」

「浅はかなのは私も同じです、曹清様にお会いして確かめる事もせずに噂を信じたばかりに・・・」

「陳宮様・・・」

曹清は瞳を閉じて唇を重ねてくる。

「どうか、この曹清に陳宮様のお情けをいただけませんか、私の身に今一度陳宮様の物だという証を頂きたいのです。」

「曹清様・・・」


この日、再び二人が交わる事となるのであった・・・

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