第34話 屋敷に帰る

俺は一度屋敷に戻り、事の次第を呂姫に報告する。

「これが現状にございます。

小沛、下邳につきましては呂姫様がお入りになられる部屋も御用意出来ております。」

「ふん、今更田舎になど行く気はない、ましてやお前が常時いるような所に行くなど考えられぬ。」

呂布が亡くなってから冷たい対応が多かったが久しぶりに会った呂姫は殊更冷たかった。


「そうでございますか、ならば引き続きお屋敷をお使いください。」 

「そうだ陳宮、拠点を得たのなら屋敷に今以上予算をかけよ、今のような見窄らしい暮らしを続けさす気ではあるまいな?」

「それはもちろんですが、私の給金は全てこちらに入るようになっておりますれば、これ以上は無理かと。」

「給金だけでなく、徐州からの資金を回せばいいでしょう。」

「それは軍費にございますれば、私がどうとか出来る資金ではございません。」

「そんな物、曹操の懐に入るだけであろう、私が使って何が悪い。」

「そのような事をすれば曹操に滅ぼされるだけにございます。

曹操に付け込まれるスキを作る訳にはまいりませぬ。」

俺は呂姫の提案を断るのだが、機嫌は更に悪くなっている。


「陳宮!お前はお父様の恩を仇で返す気か!」

呂姫は手元にあった酒の入った盃を俺に投げつけてくる。

俺はそれを眉間で受け、中身の酒をかぶる事となる。

「呂姫様、私にそのようなつもりはありませぬ、ですが我らが生きる為には身を正す必要があります。

あと、酒を嗜むにはいささか、お早いかと、今はお体を大事にすべきと具申致します。」

俺は部屋の中に充満している酒の匂いに呂姫の身が心配になり苦言を呈する。

「うるさい!お前の話など聞きたくもない!下がれ!下がらんか!」

呂姫は感情的になっており、これ以上の話は出来ないと思い部屋から下がる。


「陳宮・・・」

部屋から出た俺に貂蝉が申し訳無さそうに話しかけてくる。

「これは貂蝉様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」

俺は礼を貂蝉にする。

「陳宮、そのような事をする必要はありません、陳宮は既に曹操の元で一軍の将として充分に働いているのです。

私達を養ってくれているだけも感謝のしようがありません。」

「いえ、殿に託されたのです。

貂蝉様は何も心配なさらずにお頼りください。

さあ、そのような些事に配慮なされるより、御身体を大事になさってくださいませ。」

俺は貂蝉のお腹の子に影響があったらと心配だった。

「陳宮すみません。

私はあなたに頼るしかありませぬ・・・」

「ご安心を、私達が戦功を上げれば楽に暮らせるようになると思いますので、今しばし時をいただきたい。」

俺の言葉に貂蝉の表情は晴れる事は無かった。


・・・今以上の戦功を上げねばならぬな。

呂姫の頼み、貂蝉の浮かない表情から都で暮らすには今だ給金が足りぬのだろう。

功を上げる為にも今はチカラをつけなければ。

俺は屋敷を後にするのだった。

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