第33話 許昌

俺は周瑜を連れて許昌に帰ってきていた。

「曹操、孫家から同盟の使者だ、会ってくれ。」

「なんだ陳宮、そんな事か。

てっきり、娘さんを下さいと言ってくると期待したのにな。」

「おい、ふざけるな。変な噂が流れたら曹清様が困るだろ、全く曹操は親としてちゃんとしろよ。」

「大丈夫だ、少なくとも曹清に恨まれることはない。」

曹操は自信満々に言う。


「まあ、それはいい、それと曹清様をちゃんと送り届けたからな。」

俺は許昌に曹清を連れて帰って来ていた。

「それは・・・きっと曹清は悲しそうにしているだろうな。」

「お前の娘だからな、自由奔放がいいのはわかるが、都で重臣の子息とも縁を持たねばならんだろ?」

俺はもう少しで年頃がくる曹清にとって大事なのは婿選びであろう、然るべき時に都にいて交流をするべきと考えていた。


「お前はわかってない、それだから鈍感と言われるのだ。」

「鈍感だと!この陳宮の頭脳は鈍感とは無縁である、しかと感覚を研ぎ澄まし天下を見ているぞ!」

「だから鈍感なのだ、少しは人の機微を理解しろ、全てが頭で解るものじゃない。」

曹操は手元にあった菓子を投げてくる。

俺はそれを受け取る。

「甘い物でも食べて少しは考えるのだな。」

「待て曹操!話は終わってない!」

立ち去ろうとする曹操を呼び止める。


「孫家の事はわかっている、今は戦えん、条件にもよるが同盟を結ぶであろう。」

「やはり袁紹とやり合うことになるか。」

孫家を潰すだけなら好機ではあるが主を亡くしたとて孫策が残した軍は健在。

下手に手を出すよりは一時同盟し、袁紹に集中したいというのが曹操の本音であろう。


「陳宮、お前もそのために軍を強化しているのだろう。」

「お見通しだな、今も編成を急いでいるが、どれだけ使えるかはわからんな。」

「陳宮にはそのまま遊撃隊として動いてくれ、俺は袁紹を官渡で待ち受けるつもりだ。」

「主力は官渡に入るのか?」

「うむ、袁紹の出方にもよるが、今城を強化し籠城にそなえている所だ。」

「なるほど、わかった俺は俺として動こう。」

「頼んだぞ。」

俺は曹操の部屋から出る、するとそこには一人の若武者が立っており、俺を睨んでいる。

「何を睨んでいる?」


「お前が典満殿を罷免させた張本人か!」

「典満が罷免されたのは主命を外れた事をしたからだ。」

「お前がそう仕向けたのだろう。」

「何でそうなるのだ、私は軍を預かり指揮を取る身だ、護衛について何も望むことはない。

それより貴殿の名は?」

「我が名は夏侯恩、ゆくゆくは天下に名を轟かす者だ!」

「そうか、頑張れ。

天下に名を轟かす者が出れば曹操も楽になるだろう。」

「くっ、覚えておけ!」

夏侯恩はその場を離れていく。


この時の俺は若者の猛る心意気を眺めていた。

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