第31話 掩護

翌日、劉勲以下、家臣達の多くは許昌に向けて送りだすことになったのだが・・・


「橋公殿はついて行かなくて良かったのか?」

「ええ、ここだけの話、劉勲様には愛想が尽きました、助けて頂いたのに感謝をしめすことすら出来ぬなど、一緒に曹操様の元に行ってもロクな事になりますまい。」

どうやら、昨日の態度を見て怒りを覚えたのは俺達だけでは無かったようだった。


「それにですな、まだこの辺りの方が手柄を立てれる機会があるかと。」

「手柄だと?」

「ええ、私はまがりなりにも廬江の名士にございます。

この寿春に多少なりは人を集める事も可能かと。」

「出来るのならお願いしたい、人がいなければ街は街として機能しない。」

「お任せを。」

橋公は言葉の通り人を集め始める、それにより寿春の復興も早く進んでいくのであった。


しかし、城内では・・・

「あなた達が大喬さん小喬さんですか?」

曹清と大喬小喬の3人が顔を合わす。

街の中は復興中ということで、大喬小喬も城に住んでいたのだ。

「これは曹清様にございますか、お初にお目にかかります。大喬にございます。」

大喬は曹清の見た目から陳宮の元に滞在しているという曹清と判断し、丁寧に挨拶をする。

「ご挨拶が遅れました、小喬でございます。」

大喬の言葉に遅れながらも小喬も挨拶をする。

「ご丁寧に曹操が長女、曹清にございます。

以後お見知りおきを。」

曹清も丁寧な礼をする。


「先日の宴でのお二方のご活躍、お噂として聞きましたよ。」

「お恥ずかしい限りにございます。

皆様に持て囃されておりますが、あくまでも手慰みにございます。」

「ご謙遜を・・・そうだ、噂の曲をお父様にも聞かせてもらえないでしょうか?」

「曹操様にですか?そんな恐れ多い事ワタクシたちに難しゅうございます。

私達に出来る事など陳宮様の元で皆さんに喜んでいただくのが精一杯にございます。」

曹清の推挙を大喬は緩やかにかわす。


「お父様がおられる都の方が何かと縁を持たれるのに宜しいお方がいると思いますが?」

「ワタクシ達、田舎者などを都の方がお相手してくれるとは思えません、その件は平にご容赦を。」

ストレートな話すらかわされる。

曹清に少し焦りが出ていた。


「曹清様こそ、このような田舎におられずとも都に良きお方がお待ちなのでは?」

「そんな人いません!!」

「ふふ、そういう事ですよ。」

大喬はニコヤカに笑うが曹清の心中は穏やかでなかった。


「陳宮が寿春を制圧したのか。」

曹操の元に陳宮からの報告が届く。

「はっ、兵の増強が目的のようにございます。」

「いや、そのまま統治する方向に向けよう、劉馥、陳宮を助けて寿春近郊の管理を行え、陳宮配下には内政に向いた者が少ないからな。」

「はっ、お任せあれ。」

曹操は陳宮には軍事に集中してもらいたかった、そのために内政官を援軍として送るのだった。


「ここからは私が受け持ちましょう。」

劉馥が命令書とともに俺に内務の交代を申し出てきた。

「曹操は何か言っていたか?」

「いえ、統治は陳宮殿に任せると私はあくまで陳宮殿の支援にございます。」

劉馥の言葉から寿春制圧が認められた事がわかる、そのうえで自由に行動出来るように劉馥を送ってくれたのだろう。

「さすが曹操だな、劉馥殿、寿春をお任せしたい。」

「お任せを。」

俺は曹操の配慮に感謝する。

劉馥に寿春を任せる事で負担が軽くなる、これなら身軽に動くことも可能になった。


俺が張遼とともに軍の編成をしている時に急報が駆け付けてくる。

「孫策が死んだ!どういう事だ、何があった?」

「はっ!狩りの最中に賊に襲われ、その傷で亡くなったようにございます。」

俺は思考を巡らせる。

孫策が死んだ事により、孫策がまとめ上げた長江南はすぐには動けなくなるだろう。

近隣の強国が動けない状況に曹操が大人しくしている訳は無い。

これを機に北の強国袁紹との決戦が近付いている。

そんな気がしてならなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る