第133話 夏侯淵

「陳宮、さっきの話だが!」

夏侯惇が声をかけようとしたところに夏侯淵がやって来る。

「陳宮、曹清と結ばれたんだってな。」

「今だけだよ、今は情勢が悪いだろ?」

「たしかに夏侯惇の敗戦が痛いな、全く戦況も考えずに突撃をするから敗けるんだ、少しは反省しろ!」

夏侯淵は夏侯惇を見て軽く叱る。


「うるせぇ、少しミスっただけだ。」

「かなり被害が出たがな。」

「くっ!」

夏侯惇は引け目から強く言えなくなる。


「まったく夏侯惇が上手くやれば今頃何も問題が無かったと言うのに。」

俺はため息を漏らす。

「陳宮こそ何故追撃しなかった、お前なら追撃出来たはずだ。」

夏侯惇からすると陳宮が邪魔することが出来ていれば、袁紹が兵を補充する時間を与えなかったのでは無いかと考える。

「俺もそう思ったが兵の疲労が酷くてな、動けなかったんだよ。

そもそも引き付けるまでが仕事のはずだ。

全く黎陽を落として武威を見せつける予定じゃなかったのか?」

夏侯惇が夏侯楙を狙うあまり戦を継続したことが大きな間違いであった。

本来なら黎陽を落として引き上げる、もしくは黎陽を守り、勢力の拡大をはかるべきだった。

「ぬぅ・・・」

夏侯惇からすれば何も言えなくなる。

自身のミスであり、大失態なのだ。


「それで陳宮ならいい策はあるかい?」

黙り込んだ夏侯惇の代わりに夏侯淵が聞いてくる。

「いい策と言ってもな、今は兵力差が酷い、暫くはこっちの大勢を整えるべきだな。」

敗戦により失った兵力を集めなければ何も始まらない。

「それまで袁紹が待つか?」

「袁紹も物資が足りないはず、その前の戦で大量に焼いてやったからな。」

俺は官渡の物資だけで無く、黎陽に集められていた物資も焼き払った、そう簡単に回復も出来ないだろう。


「・・・それでだ、お前は孫権につかなかったのか?」

夏侯淵は周りが聞きにくい事をサラリと聞いてくる。

「まあ、誘いはあったさ。」

俺も隠すことなく答える。

この情勢で誘いが無い方がおかしい、隠すことの方がやましい事があると宣伝するようなものだ。


「ここにいるということは、断ったんだな。」

「まあな、曹彰様の指導も残っているしな。」

「教育してるんだっけ?」

「慕われているみたいだからな、一人前の武将にしてみせるさ。」

「それならうちの子供もお前に預けようかな、俺のもとで育てて甘い漢になるのも困るからな。」

「俺をなんだと思ってる、子守などお断りだ。」

「くく、そう言っても預けたらちゃんと指導するんだろ?」

「送って来るなよ!絶対だからな!」

夏侯淵はクスクス笑っているがコイツならやりかねない、俺は苦笑いを浮かべる。


「夏侯淵、お前からも言ってやれ曹清は陳宮の事を想っていると。」

「夏侯惇、俺は許昌から離れていて噂しか知らない、俺の方から口を出す話じゃないな。」

「夏侯淵!」

「だいたいお前が息子の管理をちゃんとしないからだ、人に当たるな。

陳宮、裏切らないならまた一緒に戦場に行こうぜ!」

夏侯淵は夏侯惇が騒がしくなる前に立ち去っていくのだった。

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