第132話 新年の挨拶

「陳宮様、曹清様を・・・」

「うん、夫婦になったみたいだ、たしかに帝の命は軽く見れないな。」

俺は事の経緯を張郃に話す。


「そのような事が・・・」

「見捨てれないだろう。」

張郃は比較的簡単に受け入れてくれたが問題は張遼達である。

来る前はかなり怒っていたから結婚したと聞いたら更に怒りを増しそうだった。


軽く準備を済ませた曹清は侍女の翠嵐一人を連れてやって来る。

「曹清様、お荷物はそれだけでしょうか?」

曹清が持つ荷物は侍女が持てる程度であり、非常に少なかった。

「私は陳宮様の下に行けたらいいのです。多くの荷物など必要ありません。」

「それでは参りましょうか、と言っても張遼の屋敷になりますが。」

曹清はその言葉に少しビクッとする。

陳宮の屋敷は私が台無しにしてしまったのだ・・・

俺は曹清を馬車に乗せ、屋敷に戻る。


曹清が俺に嫁いだ話は翌日には家臣に通達される、夏侯充と結ばれると思っていた者も多く、その驚きは大きい物ではあったが、先の敗戦があった為に政治的に陳宮が選ばれたとの見解が大半をしめた。

その為、曹清には曹操によって愛する者と引き裂かれた悲劇の道を歩かされていると評価されており、若い者の中には曹清の心中を勝手に察して涙を流す者も現れていた。


そんな中で行われる新年の挨拶である、俺を見る目は様々であった。

曹家の一員となったことで繋がりを持とうとする者、年甲斐も無く若い曹清を妻に迎えた事を遠回りに批判する者、曹清が可哀想だと騒ぐ者などがいた。


「陳宮すまなかった。」

夏侯惇はそんな空気の中、真っ先に謝罪に来る。

「夏侯惇、どうした?それより怪我はいいのか?」

「怪我はどうでもいい、それより息子達の事だ、次男に続き長男までお前の面子を潰す真似をしてしまった。」

「いや、お前がしたことじゃないだろ、それに夏侯楙は曹丕が、夏侯充は世間が噂したのだろう?」

「どっちにしても許されん、夏侯楙は始末したが、夏侯充の方もお前の婚約者だということは知っていた、それなのに曹清との距離感を忘れて近付きすぎだ、噂をされたのは夏侯充の浅はかさのせいだ、陳宮すまない。

曹清は決してお前以外の男に靡いていた訳じゃ無いんだ。」

「夏侯惇いいんだ。見ての通りのしがないオッサンだからな、見た目の良いお前の息子の方がお似合いだろう。

まあ今は情勢が悪いからな、暫し待ってろよ。」

「暫し待てとは?」

「少し落ち着けば、お前の立場も回復するだろ?

それに夏侯充も名誉挽回の機会もあるはずさ。

その時まで預からさせてもらうだけだ。」

「待て、まさかお前・・・」

夏侯惇は陳宮の考えに気づく、この男の自己評価はかなり低い、やっと曹清と結ばれたというのにこの男は曹清の想いが自分に向いていると感じていない。 

・・・いや、かつては感じていたのかも知れない、だが自分の息子が起こした噂のせいで曹清を信じれなくなっている。


夏侯惇は息子のしたことの罪の重さを更に感じるのだった。


「陳宮、曹清は!」

「おっと、夏侯惇、曹操のお出ましだ、少し静かにしよう。」

俺は曹操が会場に入ってきたので夏侯惇が話しかけてくるのは静止する。

これから新年の挨拶をするのだ、騒がしくするのは良くない。


「皆、昨年はご苦労であった。

今は厳しい状況でもあるが、朗報もある、先日陳宮に我が娘曹清が嫁ぐことにより曹家に加わる事になった、これにより東は安定する、全力で袁家に挑む事が出来るようになるのだ。

袁家は未だ強大ではある、だが帝の御名において、必ずや倒さねばならぬ相手である。

皆のさらなる奮闘を期待する。」

曹操の覇気ある言葉に場が引き締まる。


曹操の強さは言葉に感じる、覇気だなと改めて自覚するのだった。

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