第131話 話し合いは・・・
翌日、俺は曹操の呼び出しを受けて再び屋敷をたずねる。
「曹操、昨日の今日だぞ。
いったい何の用事だ。」
「すまんな陳宮、だがこの件は早急に解決しなければならないのだ。
皆入ってこい。」
曹操が声をかけると曹操の妻、卞氏と曹清が入ってくる。
どう見ても曹清は震えており、小さい身体が更に小さく見えた。
「これは卞氏様、曹清様、ご無沙汰しております。」
俺は深く頭を下げる。
「いえ、陳宮謝るのは娘の曹清にございます。」
卞氏は謝罪は不要と言ってくる。
その言葉に曹清が少しビクリと震える。
震える曹清を見て、昨日曹操にキツく叱られたのだろうと考える。
まあ、曹操が謹慎させている中、それを破った形になるのだから致し方無いところがあるのだが、原因の一端が自分とあらば口を出さない訳にはいかない。
これを機に男の俺からハッキリとさせるべきだろう。
「曹清様が私に謝る?そのような事はございません。
私の方こそ謝る必要があります。」
「陳宮、あなたが何故曹清に謝るのですか?」
「某、身の程もわきまえず、曹清様の婚約者になっておりました事にございます。
改めて考えるに某の身分、年齢ともに曹清様とお釣り合いするとは思えず、辞退させていただきたい。」
俺の言葉に3人の表情が引き攣る。
「待て早まるな陳宮!まずは話を聞け!」
「曹操、お前が威圧するから曹清様が震えているじゃないか、少しは娘を大事にしろ!」
「違う!お前は勘違いをしている!」
「何が違う?いいか、これにこりたら娘を政略に使おうとするな!」
「違う!そうじゃない!」
曹操は否定するが部屋に入ってきた曹清の姿を見るに曹操と卞氏にかなり萎縮しているようだった。
これはこの夫婦からかなり問い詰められたのだろう。
たしかに俺との婚約は曹操にとって東側の安定に不可欠なのだろう、それを娘の想い一つで壊されたら怒る気持ちもわからないでもない。
だが俺に敵対する意志が無いのだから無理に政略結婚する必要は無いのだ。
願わくば曹清が望む相手と結ばれてくれたらいいと考える。
「曹清様、これであなたは自由です、願わくばお好きな方と結ばれますようお祈り致しております。」
「・・・」
曹清はうつむいて言葉が返ってこない。
優しい曹清からすれば、自らの恋心で俺の面子を潰した事に悪いことをしたとでも思っているのかも知れない。
「曹操、話はこれでいいだろ?」
あまり長居して、曹清の想い人に勘繰られるのも面白くない。
俺は足早に部屋を去ろうとするが・・・
俺の裾を曹清が持っていて離さない。
「曹清様、もう大丈夫です。
私の事はお気になさらず、ご自由お過ごしください。
曹操が何か言ってくるなら、この陳宮が相手をいたしますので。」
「ちがう・・・」
「曹清様?」
「ちがうの!私に必要なのは陳宮様なの!陳宮様だけが必要なの!」
曹清は泣きながら俺に抱きついてくる。
「大丈夫です、曹操が命じておられてる事はわかっております、ですから私からちゃんと曹操に伝えますのでもう自由になさって大丈夫なのです。」
「違うの!お父様の命令なんて無い!私は私の気持ちで陳宮様の下に参りたいのです。」
「曹清様、あまりそのような事をおっしゃると勘違いしてしまいそうになります。
わかっております、たしかに私の勢力は少々大きく、夏侯惇の勢力は縮小してしまいました。
ですが、私はそれでどうこうするつもりはございません。
無理に御身を犠牲にする必要は無いのです。」
曹清は賢い子である、政治的な駆け引きを気にしているのかも知れない、だが俺としては身を犠牲にしてまで俺の所に来てほしくはなかった。
「違うの・・・信じてくれないかも知れないけど、私は陳宮様だけなんです!」
優しく諭したつもりなのだが曹清は更に泣き始め、しがみついたまま離れない。
どう説得するか考える中、俺は曹操に助けを求める視線を送る。
「陳宮、こうなった以上、お前が娶らないなら曹清には隠退してもらう。」
曹操は少し思案した中、強行手段に出る。
これでダメなら曹清には本当に隠退してでも責任を取ってもらう覚悟であった。
「なっ!曹操、それはあまりに酷い話だ!」
「何を言うか!家長の俺の命令がお前に嫁ぐ事なら、何をおいても嫁がねばならぬ話な上に、お前達の婚約は帝もご承知である。
それを破棄すると言うなら曹清にはそれ相応の罰を受けねばならぬ。」
「曹操、それなら破棄を申し出た俺に罰を出すべきだ!」
「世間の噂は知っているだろう、破棄を申し出たお前に罪は無い事は皆が知っている、だが曹清はどうだ?帝がお認めになった婚約者がありながら他の男と噂を立てられる始末だ、どちらに非があるかは一目瞭然、隠退させるだけでも生ぬるいぐらいだ。」
曹操の言い分も筋が通っている。
正式に破談を申し込んだ後ならいざしらず、その前から男との噂があったのだ、非がどちらにあるかはハッキリとしている上に、帝の認証というのが更に厄介だ、破談を軽く見れば帝を軽く見ているともに捉えられる。曹操としては厳しい罰を出すしか無いのか。
「陳宮どうする、お前が娶るか、隠退させるかだ。」
「ぐっ!曹操!」
「私は陳宮様の下に嫁ぎたいです!陳宮様どうか私をお受け取りいただけませんか?」
曹清はギュッと抱きついてくる。
「・・・わかりました。曹清様をお預かりいたします。
曹清様、ほとぼりが冷めましたらいつでもお好きな方に嫁いでいただいて構いませぬから。」
「・・・私は好きな方に嫁ぐのです。
どうか末永くお側においてくださいませ。」
曹清は俺を抱きしめたまま離れようとはしない。
「曹清様、もうわかりましたからお離れになられても。」
「いやです、陳宮様と離れていたからおかしな事になってしまったのです。」
「陳宮、曹清を連れて帰れ。
式は兎も角既にお前達は夫婦だ、明日にでも正式に発表する。」
俺は離れる事がない曹清を連れて家に帰る事になるのであった。
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