第134話 若者の宴
俺は夏侯惇、夏侯淵と別れ、他の軍師、将軍達にも挨拶をしていく、古参の知り合いこそ普通に話せたが、多くの者が何処かの引いた感じでの会話となっており、足早に会話を終わらせる結果となっていた。
「陳宮、新婚生活はどうだ?」
「茶化すな曹仁、政略結婚な事は知っているだろ?」
「まあな、夏侯惇が負けなければ相手は夏侯充だっただろうな。」
「本当に悪い事をしているとは思っているさ。」
「悪いことをしていると思うなら、情勢が落ち着けば離縁するよな?」
「まあな、俺も愛しあう二人を引き裂くような真似はしたくない。」
「わかっているならいい、どうも若い奴らは政略結婚という事の理解が足りん、曹真なんかはお前を斬って曹清を解放するとかほざいていたからな。」
「おいおい、それは物騒だな。」
「まあそれは俺が指導しておいた、今お前を失うと東が安定せんからな。
感謝しろよ。」
「へいへい、それでその曹真は?」
「あそこだ、不満気に酒をあおっているだろ?」
「ああ、結構呑んでいるみたいだな。」
「下手に近づくなよ、若いヤツは暴走しがちだからな。」
「違いない、だが、それを言うと言う事は曹仁も老けたな。」
「それはお互い様だ、まあ気をつけてくれよ。」
曹仁なりの気遣いなのだろう、俺は若者達が集まっている場所を避ける事で危険を回避するのだった。
「くそっ!面白くない!」
曹真は曹休、典満、夏侯充達、若い者と集まり酒を呑んでいた。
可愛く心優しい曹清があの萎びたオッサンの魔の手にかかっていると考えると呑まずにいられない。
何の為に近衛兵の特権を使い、書状の往来を止めていたかわからない。
手に持つ酒をあおる。
「曹真、飲み過ぎだぞ。」
典満は曹真を諫める、明らかに呑む早さが早い。
曹操がいる新年の宴で泥酔して醜態を晒すのはあまり好ましく無い事態なのだ。
「典満!お前に義憤はないのか!曹清様があのオッサンの毒牙にかかっているのだぞ!」
「しかしだな、曹操様がお決めになられた事じゃないか。」
「あの色ボケたオッサンが曹操様が厳しい状況なのをいい事に可憐な曹清様を要求したに違いない!」
「落ち着け!たとえそうでも曹操様の批判にも繋がってしまうぞ。」
「くそっ!夏侯充も夏侯充だ!戦になど負けるから陳宮に横から攫われるのだぞ!」
「面目ない・・・」
夏侯充は話こそ合わせるものの、夏侯惇からかなり叱られている。
それこそ、これ以上騒ぎに加担すれば夏侯惇から処刑されかねないぐらいだった。
「あー、くそ!年齢だけの奴に曹清様がぁーーー!!」
曹真は酔いが回りきり机にうつ伏す。
「寝たか?」
「寝たようだな。」
典満、夏侯充は曹真が寝たことに一安心する、これ以上騒ぐ事は無いだろう。
典満としてはもう陳宮に思うことは無い、むしろ処刑されていてもおかしく無い所を見逃してもらったのだ。
曹清の婿と見れるかと言うと少し違うがあからさまに批判する気にもなれなかった。
「夏侯充、お前としてはどうなんだ?」
「なにがだ?」
「曹清様の事だ、あれ程噂になっていたのだ、思うことの少しはあったのか?」
「・・・そりゃ無いと言えば嘘になるな、だが今はそれどころじゃない、国を揺るがす事態になっていると親父にキツく叱られたよ。」
「まあな、陳宮は青州、徐州と広い領地を管理しているからな、今離反されると曹操様がお困りになるだろう。」
「わかってはいるんだがなぁ・・・」
夏侯充は曹清が自分に向けてくれた楽しそうな笑顔を思い出していた、それは普段振りまく笑顔とは違う、自分と話す事で引き出せた最高の笑顔である。
それが陳宮の下に行くことで失われると思うと胸の奥にモヤモヤを感じる。
実際、陳宮の所に嫁ぐ様子をこっそり遠目で見たが苦しそうな表情のうえ、僅かな荷物と侍女が一人という寂しいものであった。
それを見た瞬間に犠牲という言葉が頭に浮かんだ、陳宮と言う強すぎる家臣を引き止める為に曹清を犠牲にしているのだ。
だが自分にはどうする事も出来なかった。
陳宮を倒すにはチカラも足りない、曹操に認めてもらうにも先の失態を返す事が先決である。
そうしている間にも曹清は望まぬ陳宮に汚され続けているのである。
・・・何も出来ない。
自分はなんと無力なのだ、一人の女性を助けることも出来ないとは・・・
自身の不甲斐なさから夏侯充も酒をあおる。
「夏侯充?お前も呑み過ぎだ。」
典満は酔い潰れた夏侯充と曹真の面倒を見て宴は終わるのだった・・・
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