第208話 結婚式

袁紹の死亡という一大事が起きたが、俺と曹清の結婚式は予定を少し早め行われる事になる。


俺としては対応するために結婚式を中止にすることも考えたのだが、曹操が頼みこんで来たことと、ひとまず様子見の為に急な動きは無いだろうとの事で開催される事になった。


「曹清様、お綺麗です。」

「ありがとうございます、陳宮さま、陳宮さまも似合ってますよ。」

俺は曹清の花嫁姿に目を奪われていた、この姿を見れただけでも結婚式を行って良かったと思う。


「うむ、似合いの二人だな。」

曹操は満足気に俺達を見ている。

「似合いかどうかはわからないな、俺の見た目が負けてるからな。」

「そんな事はありません。陳宮様は天下に名を轟かしている御方です、私の方が見劣りしていると・・・」

「曹清様、それなら私が代理に陳宮様の隣に座ってもよろしいですか?」

「夏侯敬、それはダメです。」

「あら、夏侯敬が、いいなら私達でもいいのでは?」

「大喬、小喬もダメです、私が隣に座るのです。」

曹清は慌てるように俺の腕を掴んでくる。


「みんな、からかうのはそこまでにしようか、式場で客人が待っているからね。」

「「「はい。」」」

「陳宮様、行きましょう。」

俺と曹清は晴れ舞台に上がるのであった。


その頃、曹休は警備にあたる近衛兵の中で自分の息のかかった者達を集めていた。

「我らは曹清様をお救いする義兵である、我らの成すべきことは陳宮の抹殺だ、いいな仕損じるなよ。」

「はっ!我らは命に変えて曹清様をお救い致します。」

「お前達の忠義、俺は生涯忘れぬであろう。」

「勿体無いお言葉。」

近衛兵達は曹清を救う為に死を覚悟して事にあたるつもりであった。


曹清の人気が悪い方に働いていたのである。


俺と曹清は曹操傘下の家臣達の祝辞に始まり、許昌の大商人、各地の名士など多くの者の応対に追われていた。

「い、いそがしいな・・・」

「ええ、なぜこんなに多くの人が・・・」


「そりゃそうだろ、陳宮は先の戦の手柄がデカい事はみんなが知ってる、だが先日まで蔑んでいた手前、不興をかっているんじゃないかと不安なんだよ。

だからこの祝い事に対して過敏にやってきているんだ。」

夏侯淵は来ている来訪者を蔑むような目を向けている。

「夏侯淵、それは仕方ないんじゃないか、ほれ俺の見た目は良くないし、歳の差だってな。」

「ふん、歳の差などよくある話だろ、お前が一桁の女と婚姻したとて驚きはしないぞ。」

「一桁のって、さすがにそれは勘弁してほしいな。」

「まあその時は引くがな。」

夏侯淵は大きく笑う。


「夏侯淵、陳宮様に女性を薦めるのはやめてください。」

「あはは、曹清が一人前に嫉妬か?そりゃ俺も歳をとるな。」

「夏侯淵。」

曹清はからかわれたとわかり、プクッと頬を膨らます。


「曹清、陳宮を手放すなよ、これほどの漢は他にいない、曹操の天下の為にも絶対に必要な漢だからな。」

「肝に命じておきます。」

夏侯淵の言葉は先日の自分の失態の事を指しているのがわかる、真剣な眼差しの夏侯淵の忠言を曹清はしっかりと心に刻み込む。


「さて、じゃあ俺も援護をしようか。

皆よく聞け!今日の門出を俺は祝している!

この婚姻に難癖をつける奴はこの夏侯淵の敵となる事と理解せよ!!」

夏侯淵が歴戦の猛者としての覇気を込めた言葉に会場は一時静まり返る。


「おいおい、夏侯淵。

そこまで覇気を出した言葉を出さなくても。」

「これぐらいしてもわからぬ奴はわからぬ者だ、まあ俺がここまで言ったのだ、簡単には難癖をつけれんだろう。」

夏侯淵は上機嫌で笑っている。


夏侯惇と同じ席につく夏侯充は夏侯淵の言葉を面白くない面持ちで聞いていた。

「くっ、夏侯淵様まで何を言っている、曹清様をお救いしてくれないのか。」

夏侯充は手元の酒をあおる。

「夏侯惇殿、夏侯充殿少しいいかな。」

「これは程昱殿。

程昱殿も来ておられたのですか。」

夏侯惇が受け答えする隣で夏侯充も礼を取る。


「ええ、陳宮に思うところは無いということを見せねばなりませぬからな。

そうだ、程育挨拶をしなさい、こちらが義父になる夏侯惇殿と婚約者の夏侯充殿だ。」

「はじめまして、程育ともうします。」

程育が紹介してきたのは巨漢の許褚の娘ではないかと疑いたいぐらいの巨漢な女性(と思われる)が立っていた。


「う、うむ、私が夏侯惇だ、こちらが息子の夏侯充だ。

中々健康そうな、娘ですな。」

「お恥ずかしい話です、末娘の為につい甘やかしすぎて娘の望むままに育て手しまったものでして・・・」

程昱としても娘が恥ずかしい姿をしている事は自覚している、婚姻は既に諦めていたのだが、その為に夏侯充からきた縁談の話を逃がす気はなかった。


「ほら、夏侯充も挨拶をしろ。」

「え、え、私が夏侯充です・・・」

夏侯充は目の前の化け物が何か理解出来ない、いや、理解したくない。

これが自分の妻になるのか・・・

冷や汗が流れてくる、これならば平民の女の方がいい女がいる。


「あら・・・素敵な御方ですね、お父様私は気に入りました。」

「それはよかった、程育末永く可愛がってもらいなさい。

夏侯充殿もくれぐれも良しなに頼みますぞ。」

程昱の眼は夏侯充を縛り付けるような威圧に満ちていた、流石は曹操軍の参謀であり、かつて陳宮の策を食い止めた漢と感じるものがあった。

そしてそれは娘を大事にしなければこの男が敵に回るということがハッキリと理解させられるのであった・・・

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