第91話 建設中

今俺の眼の前に立派なお屋敷が造られている。

「陳宮様、これで陛下をお迎えしても恥ずかしくないですね。」

俺の隣で嬉しそうに曹清が笑いかけている。

「あ、あの〜何か間違って無いかな、俺の屋敷という話だったような気がするのだけど。」

「ですから、これが陳宮様と私のお屋敷ですよ。」

華やかな宮殿のような造りにしか見えない。


「いやいや、俺などは寝台と机、あと資料を置く棚があれば生活できますから。」

「陳宮さま、貴方様はこれから曹家の一員として、そして、重臣としてお仕事をするのですからお屋敷ぐらい立派にしないと他の方が贅沢しにくくなるんです。」

確かに曹清のいう通り上の者が質素な暮らしをし過ぎると、手柄を立てた者も贅沢がしにくくなる。

清貧は美徳でもあるが過ぎると他の人に影響が出る。


「お屋敷に負けない仕事をしないといけなあな。」

「それは大丈夫ですよ、既に充分働いてます。あとはその・・・わたしと・・・」

曹清は少し恥ずかしそうに俺の服の裾を引っ張っている。


「い、いえ、まだ、そういう事はですね、日が暮れてから・・・」

「きっとお日様も許してくれます。」

「いやいや、ダメですから!まだやることがありますし。」

「はい、やることがありますよね?」

俺と曹清のやることの意味が違っていた。


「曹清、やるのはいいが少し旦那を借りるぞ。」

「お父様、新婚夫婦の邪魔はよろしくないのでは?」

「そういうな、陳宮には働いて貰わねばならぬからな。

まあ、ここではなんだから、まずは部屋に行こうか。」

俺は曹操と一緒に話し合う為に部屋に向かう。


「陳宮、お前ならどうやって袁紹を倒す?」

先の戦で大負けしたとはいえ、袁紹の兵力はいまだ曹操軍より多い。

単純に攻め落とせる相手ではない。


「ふむ、ここは様子見かな、国内も大分荒れているし、兵士も疲弊している、一度休ませてから改めて戦うべきだと思う。」

「なるほどな。」

「お前の考えは違うのか?」

「いや、同じだな、官渡での籠城は兵の心身に負担をかけた、今すぐには動かせん。」

「ならそれで決まりじゃないか?何の問題が?」

「若手がな手柄を立てるチャンスと騒いでいるのだ。」

「手柄を立てるチャンスって、袁紹はそれ程弱く無いだろ。」

俺の言葉に曹操がジト目を向けてくる。


「お前のせいだぞ。」

「俺の?」

「そうだ、お前がアッサリ袁紹軍を倒すから自分でも出来ると勘違いしている者共がいるんだ。」

「それ程アッサリじゃないんだが・・・」

「それでも、曹清を連れていける、余裕があったように見えるらしい、それならば自分達もとな・・・」

「なんだよ、それは・・・」


官渡の戦いを制したがあまり戦場にでていなかった若い将校の中では冴えない陳宮でも、活躍できたのだから、自分ならもっと上手くやれたと考える者が多くいた。

実際、戦闘らしい戦闘は少ない、ただ忍び込んで奇襲をかけただけのように見られていた。

それを実行するために必要な発想、準備、敵地に侵入する胆力、そして、軍を纏める統率力、どれが欠けても達成出来ないのだが若い者達はそれを考えず、自分なら出来ると根拠の無い自信に溢れていた。


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