第82話 姉弟

貂蝉を張遼に預け、俺は城にある執務室へと向かう、元々屋敷に帰らずここで寝泊まりしていたのだ、俺にとって何も問題が無い・・・はずだったのだが。


執務室に入るとそこには曹清が待っていた。

「お帰りなさい陳宮様、お食事の準備が出来ていますよ。」

「曹清様!何故ここに!」

「私の家はお城にありますし、何より陳宮様がこちらに来られると思いまして。」

「まあ、言われてみるとそうなのか・・・」

確かに出陣前はよくここに寝泊まりしていたし、曹清は城に住んでいる、来ようと思えば来れるなぁ・・・


「・・・って!曹清様がこちらにいる必要は無いでしょう、曹操の所に帰ったのでは?」

「来ちゃいました。陳宮様、色々あって大変だったでしょう。

こんな時は一人でいるより誰かといる方が良いんですよ。」

曹清が言うように一人でいると暗く考えてしまう・・・のか?

呂希と離婚したとはいえ、呂希自身が選んだ相手と結ばれるのだ、何も悪い事ではない。

俺にとってもシコリになるような物は無かった。


「ダメですよ、深く考えないで。

ほら、私がいますから。」

曹清がギュッと俺を抱きしめる。

「いや、俺は別に何も・・・」

「いいんです、こんな時は・・・

一緒に寝ましょう、きっと人肌が恋しいはずです。」

曹清は真っ赤になりつつも俺を抱きしめている。


「姉上!!血迷った事をなさらないでください!!」

執務室にまだ若い男の子が走り込んで来て俺と曹清を引き離す。

「うん?この子は・・・曹操に似てるな?」

俺は男の子に何処となく曹操の面影を感じる。


「曹丕、お姉ちゃんの邪魔をするなんてどういうつもりかな?」

珍しく曹清が怒っているような雰囲気を感じる。


「うっ、あ、姉上がおっさんに誑かされていると聞いて・・・」

「誑かされていません。」

「でも、今さっき、そこのおっさんと・・・」


「誑かされていません。

誰がそんな事を言ってるの?」

「夏侯尚が・・・」

「夏侯尚ですか、貴方の親友なのは知っておりますが・・・その名前、よく覚えておきますね。」

曹清とのやり取りで曹丕はすでに泣きそうになっている。

「姉上、夏侯尚は悪く無いのです!!」

「悪くない?真実で無いことを吹き込むのが悪くないとでも?

曹丕、貴方がお父様の後を継ぐつもりなら、言葉の真実に目を向けなさい。」

「うう・・・姉上ごめんなさい。」

曹清に睨まれ、曹丕は泣き出してしまう。


「曹清様、そのあたりで・・・

ご姉弟の仲に口を挟むのは少々行き過ぎとは存じますが、すでに大勢は決しております。

許して差し上げてはどうでしょう?」

「陳宮様はお優しいですね。

曹丕!いい二度と私達の仲に口を挟まない事!」

「でも・・・」

「なに?何かあるの?」

「・・・ないです。」

曹丕はガクリと肩を落として部屋から出ていくのだった。


「曹清様の意外な一面をお見受けしましたな。」

「お恥ずかしいかぎりです、一応これでも姉なものでして・・・」

曹清は恥ずかしそうにしているが、姉弟で喧嘩出来るだけでも充分である。

曹操という父親が遺すであろう遺産を考えれば、姉弟、親族でいがみ合ってもおかしくはない。


「陳宮様、それよりお食事にしましょう。

さあこちらに。」

曹清は俺の手を引き、話を変えるように食事へと誘うのだった。

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