第302話 何故二人を
「先生、何故二人に兵を預けるのですか?」
曹彰は俺が関興、張苞に兵を預ける事を不思議に思っていた。
「曹彰、若い者を育てるのは先達者の使命だよ。」
「ですが、あの二人は敵になる可能性が高いと思いますが?」
「なるかもしれないし、ならないかもしれない、敵対するなら相手をするが、俺の下にいる以上、未来ある若者だ。」
「先生は優しすぎます。」
「この歳になると若者の成長を見るのが楽しくなるのだよ。
曹彰、君も同じだ。
二人より大きな漢になりなさい。
そして、私を楽しませてください。」
「お任せください!僕は天下一の漢になり、僕を育てた先生の名前を天下に広めます!」
「その時を楽しみにしてます。」
目を輝かせる曹彰を見ていると、いつかその時が来るのだろうと今から楽しみであった。
「関興!隊が崩れているぞ、ちゃんと周りをみろ!」
「張苞、後ろを見ろ!一人で進む気か!」
若者二人は隊の運用を学ぶため、趙雲から指導を受けていた。
「なんで陳宮の奴が指導しないんだ!」
趙雲の武勇に勝てる訳もない二人は逆らう事も出来ずただ厳しい指導を受け続ける。
「二人とも、不満があるのか?」
「いえ、そんな事はありません!」
「不満があるのはわかっている、だが今学んでいる事を身につければ一軍の将になれる。
しっかり身に付けろ。」
「・・・お言葉ですが、兵とは強き者の背中についてくれば必然と強くなる物では無いでしょうか?」
「張苞、君が言いたい事は、父張飛のように蛮勇を振るい兵を率いたいのだろう。」
「父を知っているのですか?」
「公孫瓚様の所で一時期一緒にいた。」
「・・・それなら父が兵を気にしていない事は知っているでしょ!」
「だからこそ、戦に勝てない。」
「!!」
「張飛、いや関羽もかたしかに武勇は天下に名を轟かすほどである正面からやり合える者は多くないだろう。だが戦をすれば勝つのは陳宮様だ。」
「そんな事は無い!陳宮が軍師をしていた呂布軍を打ち破ったんだ、勝ったのは劉備様だ!」
「あれは呂布が陳宮様の策を用いなかったからだ、陳宮様が自由に策を用いた結果が今の陳宮様のチカラになっている。」
「それは運が良かっただけでは・・・」
「それだけで天下第一の勢力にはなれないだろ、ましてや陳宮様は敗軍の軍師だったんだ、弱ければ今も曹操軍の一武将だっただろう。」
趙雲の言葉は考え物があった、たしかに数年前まで陳宮などただの武将なのである、それが今や何ヶ国も支配している領主であり、望めば天下も取れると言われるまでになっているのだ。
「でも、陳宮の武勇なんて・・・」
「そうだ、陳宮様に武勇は無い、だからこそ配下の私達が支えている。
そして、私達を惹きつける魅力があの方にあるのだ。」
「陳宮の魅力ですか?」
「そうだ、この乱世にそぐわない優しい心、それが他の君主に無い所であろう。」
「陳宮が優しいのですか?」
「優しいだろう、それはお前達が自由にしている事からわかるだろ。」
たしかに捕虜のはずの自分達が今や兵を預けられ自身を鍛えることを許されている、それは他の者では許される事は無いと思われる。
「しかしそれは関銀屏が人質として手元にいるからでは無いでしょうか?」
関興が趙雲に話しかける。
「関銀屏が人質?陳宮様が救わなければ死んでいた少女が人質になるはずが無いだろ。
陳宮様があの子を手元に置いているのは誰かに危害が加えられないようにだ、国元に返しても何をされるかわからないし、落城のたびに捨てられるのも可哀想だ。」
関興は言葉に詰まる、言われた通り、自分達は関銀屏は自害し、自分達も死ぬつもりだったのだ、今更関銀屏を人質に取られたとして道を変更するとは思っていない。
「そういう事だ、まあお前達を鍛えるのは私としてもどうかと思うが陳宮様はお前達の才を勿体無いと思われたのだろう。」
「俺達の才ですか。」
「そうだ、天下が収まっても次世代を引き継ぐ者がいなければ安寧は長くは続かない、それを支える人が必要なのだ。
だからこそ、君達には天下の為に何をすべきか見つけてほしいと思っている。」
「その結果、陳宮と敵対するかも知れませんよ。」
「その時は私が君達を倒そう。」
趙雲の言葉に迷いなど無い、今の自分達では二人がかりでも趙雲に勝てないことは明白であり、無駄に戦うつもりも無かった。
「なに、今は学ぶ時だと考えたまえ。
この経験は人生の糧になるだろう。」
趙雲の指導を受けつつ、平原にいる高順と合流する時にはそれなりの指揮を取れるように鍛えられるのであった。
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