第249話 出迎え
「曹昂、親父を迎えに行くぞ。」
徐州から兗州に向かっていた曹嵩が近づいたので曹操自ら出迎えの為に一軍を率いて国境まで向う。
「陳宮、曹昂から聞いたぞ。
娘を娶るんだな。」
「あ、あれは冗談で、曹昂様!なんで曹操に言ってるんですか!」
「えっ?妹の結婚なら父上に伝えないとダメだろ?」
「あれは冗談の話でしょ!全く親子揃ってたちが悪い!」
「くく、とはいえな、いつまでももてない軍師の身を心配するのは友として当然だろ?」
「余計なお世話だ!嫁子が無くとも軍師は出来る、全く娘を使った冗談は程々にしとけ。」
「わはは、曹清が気に入ったらいつでもやろう。」
「曹操!!」
道中他愛の無い話をしながら進むのだが・・・
「曹操!何やら土煙が上がっている、何か合ったのかも知れない、先行部隊を送るべきだ!」
俺は前方に上がる土煙から異変を感じる。
「曹仁!先行して親父を迎えに行け!」
「わかった!」
「曹仁殿、曹嵩様が襲撃を受けている可能性がある!急いでくれ!」
「陳宮わかってるって!」
曹仁は一部隊を率い先行していく。
「曹操、俺も先に向う、お前は本隊と共に進むんだ。
黄沢、俺と一緒に来い。」
「陳宮気をつけろよ!」
俺は黄沢を率いて曹仁を追うように部隊を進める。
「こ、これは・・・」
俺が辿り着いた時には曹嵩は馬車の中で息絶えていた。
そして、周囲には曹嵩の家族や家人達が無惨な姿を晒していた。
「くそっ!もっと早く気付いていれば!」
俺は曹嵩が乗っていた馬車を殴る。
曹嵩は曹操を何より可愛がり、曹操の友として俺にも丁寧に接してくれていた、そのような人の死は俺の心に大きな穴を空ける。
「陳宮、曹仁殿は逃げる賊を追撃しているようだが俺達はどうする?」
「・・・曹仁殿なら問題無いでしょう、皆曹操のご家族を丁重に弔いましょう。
まずは一処に集めて・・・」
俺はそこまで言って違和感を感じる、曹嵩を含め、家人達は全てそれなりの歳を迎えている、曹操の娘はまだ年端も行かぬ子供のはず・・・
「黄沢!全員よく聞け!曹操の娘、曹清様が生きておられる可能性がある!街道沿いを丁寧に捜索しろ!」
「えっ?」
「曹操の娘はまだ子供だ!この中に子供がいない!曹嵩様が逃がした可能性が高い!急げ!賊がまだいるかも知れん、すぐに救いに行くのだ!」
「はい!」
俺の命令を受け、曹清の捜索が始まる。
一方、本隊を率いて曹嵩のもとに辿り着いた曹操は泣き崩れていた。
「親父・・・
何故だ!何故親父が死ななければならない!
この俺の晴れ姿だぞ、親父。
見てくれよ親父!!」
曹操の嘆く声を聞いた者達は曹操にかける言葉も無かった。
「誰だ、誰が親父をこんな目に・・・
陶謙は護衛を出したのではなかったのか!」
徐州の牧陶謙は曹操と誼を結ぶために護衛を付けていたのだが事もあろうにその護衛の一部が曹嵩の持つ財貨に目が眩み襲撃するという本末転倒な事を行っていた。
「許さん!許さんぞ!陶謙!」
曹操の心に黒い怒りの炎が灯るのを誰も止めれなかった。
一方俺は・・・
「くっ!」
茂みに隠れていた賊をなんとか斬り伏せていた。
「陳宮、お前は武勇が無いのだから大人しくしてろ。」
「黄沢、それを言うなら、俺より曹清様の方が危ない、みんな見落としの無いように気をつけてくれ!」
俺の言葉に黄沢は諦めたようで何人か護衛をつけられ曹清の捜索を続ける。
「この森は・・・」
俺は森の中で急カーブをしている場所に感じる物があった。
そして、抜けた先に落ちていた財貨・・・
「黄沢、この辺りを重点的に探す!」
俺は茂みの中に入っていく。
「待て陳宮!おい!陳宮を守れ!」
黄沢の慌てる声を聞くが俺は気にも止めず茂みの奥に入っていく。
「と、止まりなさい!」
侍女と思わしき女が短刀を片手に震えながら対峙する。
「大丈夫です、私は曹操配下の陳宮と申すものです。
曹操の命令により、御息女曹清様をお迎えにあがりました。」
「それを証明する物は?」
侍女の翠嵐は警戒していた。
「翠嵐大丈夫です。この人は信じれます。」
翠嵐のうしろに隠れていた曹清は姿を見せる。
「曹清様!危険にございます。」
「大丈夫です。陳宮様、お父様の所に連れて行ってくださいませ。」
曹清は無警戒に俺に近づき手を握る。
「はっ!お任せを。」
俺は曹清の手を引き街道に止めてきた馬の所に向う。
「さあ、私が引きますので馬にお乗りください。」
「陳宮様が歩かれるのなら私も歩きます。」
「いえいえ、曹清様を歩かせる訳には参りません。」
「ならば一緒にお乗りください。私だけで馬に乗れませんから。」
「わかりました、一緒に参りましょう。」
俺は曹清のうしろに乗り、曹操のもとに向う。
「これが馬から見る景色なのですね。」
曹清は俺の懐にしがみついていた。
「落ちないようにお気をつけください。」
「わかりました、陳宮様に捕まります。」
曹清はギュッと俺にしがみついてくるのだった。
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