第261話 夏侯覇

「陳宮様、何故私が曹彰様の麾下から外れるのですか?

私の武勇が彼らに劣ると言うのですか!」

曹彰の元に集まった将を聞き、夏侯覇は居ても立っても居られずに俺に質問に来ていた。


「夏侯覇、落ち着きなさい。

君の武勇が劣るから外した訳じゃない。」

「じゃあ、なんで!」

「夏侯覇、曹彰が今後必要になる者がわかるかい?」

「曹彰様に必要になるもの?」

「そうだ。」

「・・・戦に勝つための武人では無いのですか?」

夏侯覇は考える、曹彰が軍を起こす以上、その軍の武になる武人が必要なはずなのだ。


「確かにそれは必要だ、だけどね、私が一番大事だと思うのは曹彰と対等に話せる相手だと思っている。」

「曹彰様と対等に・・・」

「そう、曹操にとって夏侯淵、夏侯惇がいた、あの二人は曹操が間違えた時に意見を言うことが出来るだろ?

曹彰が道を誤る時に止めることが出来る者が必要になる。」

「私が父上や、叔父上のように・・・」

「そうだ、その為には今麾下に入るとどうしても上下関係に飲み込まれてしまいかねない、だからこそ私の下で学んでみないか?」

「しかし、曹彰様も陳宮様の下で学ぶのなら同じなのでは?」

「同じ軍に入っていない以上、曹彰の命令を聞く必要が無い、だけど私の下にいる以上、親睦を深める事は出来るだろ。

それに曹彰はその身を危険に晒す事も出来ない分、夏侯覇には危険な経験も積んでもらうつもりだ。

どうだ、出来ない、やりたくないと言うなら今からでも曹彰軍に推薦するけど?」

「陳宮様、俺の事をそこまで買ってくれていたのですね・・・

この夏侯覇、自身の不明をお詫び致します。

どうかこの俺を鍛え上げてください!」

「わかった、厳しくなるけど頑張れ。」

「はい!」

俺が夏侯覇の肩を叩くと元気のいい返事が帰ってくる。

その日から夏侯覇の訓練は激しさを増すのであった。


「夏侯覇、まずは武を鍛える、趙雲に頼んであるからしっかり訓練するように。」

俺は個人の武勇に対して趙雲に訓練をお願いしていた。

「趙雲師父よろしくお願いします。」

「夏侯覇まずは槍を持ちなさい。」

「はい!」


俺が夏侯覇の指導に趙雲を指名したのには理由があった。

夏侯覇はこれまで自分の反射神経と膂力に任せた槍捌きを行っており、数多くの無駄があるとこれまで訓練を見ていた張遼から聞いていた、その為に仲間で一番槍捌きが上手い趙雲の指導を受ける事により、槍を振り回すだけでない槍術を身に付けさせるつもりだ。


「夏侯覇、形が崩れている!

ちゃんと型で受け流せ!」

趙雲が軽く振るう槍を型で受け流す訓練をしていた。

「趙雲師父、しかし、型に合わせると窮屈で・・・」

「窮屈に感じるのはそれだけお前の動きに無駄があるということだ、型というものは長年多くの者が動きを研究し作り上げた物だ、

確実に身につければ、受け流した後、反撃に繋げられる。

お前は夏侯淵殿から受け継いだ才覚のみで槍を使っていたのだ、弱者相手ならそれでいいかも知れんがお前が戦うのは強者になる、ちゃんとした槍術を身に付けないと屍を晒す事になるぞ!

ほら、型稽古1000本だ!」

「はい!」

夏侯覇は趙雲の指導を真面目にこなしていく、夏侯覇が曹彰に合流するのは暫く先の話になるのであった。

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