第124話 卞氏と話

卞氏が優しく話相手になることで少しずつ曹清も落ち着きを取り戻していた。

「お母様、ありがとうございます。」

「いいのよ、こんな時じゃ無いと曹清は甘えてくれませんからね。」

卞氏とは血の繋がりは無い、曹清は亡くなった兄曹昂と共に曹操の最初の妻である劉氏の子であるのだが、劉氏が亡くなったあと、卞氏は曹清達だけで無く、どの子に対しても平等に優しく相手をしてくれていた。

曹清も心を許せる存在であった。


「・・・お母様、私はどうしたらいいのでしょう。」

曹清は悩みを口にする。

どうしようも無い事はわかっている、だが今は声に出して縋りたかったのだ。


卞氏としても事情は聞いている。

てっきり夏侯充に移ったものだと思っていたぐらいだった。

「曹清、そんな小さい事を気にしない!」

「お母様?ですが・・・」

「女性が貞淑で無ければならないなんて男達の妄想よ!

そもそも敵国の姫を攫って妻にとか普通にするじゃない。」

「で、でも、私は陳宮様に嫌われたくない・・・」

「曹清、私の事を汚らわしいと思う?」

「お母様が汚らわしいなんてそんな事ありません!」

「そう?でも私は曹操と会う前、ううん、会ってからも他の男と寝てたわ。」

卞氏は元々歌妓であった、若いうちは金で身体を売ったりもしていた。

たまたま曹操と出会い、こんな宮中にいるが本来貞淑などとは縁遠い存在だった。


「お母様・・・」

「まあ、そうは言っても貴女の状況とは少し違うわね。

それなら現実的な話をしましょうか、曹清、お腹に子供は?」

「いません、まだ出来ていません。」

曹清はお腹を擦るが、中には誰もいない。


「よろしい、子供がいたら面倒くさい事になるからね、いい、決して自暴自棄になって他の男と寝たりしないのよ!」

卞氏は陳宮との仲を戻すことに必要な事を曹清に伝えていく。

「そんな事をしたりしません!」

「どうかしら?意外と今の曹清の状態の時に優しい言葉をかけられたら一時の過ちでしちゃったりするのよね。」

卞氏は知り合いの経験談を曹清に語る。


「しません!」

「しないのならいいの、でもね、噂がたっても駄目なの、これから一年、男と二人で会わない。何時も誰かを側に置きなさい。

それと少しでも日がかける前に自室にいる事。」


「はい。それはもちろんです!」

「そう、難しいわよ、たとえ曹丕が相手でも会っちゃ駄目。」

「曹丕もですか?」

曹清からすれば、弟に会うぐらいは問題ないように感じるのだが・・・


「弟でもね、いい曹清、貴女は不貞を疑われているの、そのお腹に宿る子供が誰の子か、それが一番大事なのよ。

もし、陳宮との子供が出来た時に疑われたくないでしょ?」

「でも弟ですよ?」

「弟でもよ、それに曹丕は一度貴女を罠にかけようとしたことがある子よ。

今回の噂の元凶も貴女が曹丕に優しくしたこともあるのよ。」

「でも!弟があんな状態になったら!」

曹清にとって弟が引き篭もり、人間不信になっていたら救いの手を差し出すぐらいは当然のことだった。


「曹清!貴方の大事な人は誰なの!」

しかし卞氏は曹清の言葉を断ち切る。

卞氏としても曹清の優しい気持ちは知っている。

だが、今の曹清が望むのは陳宮との復縁だ、それならば大事な者をハッキリとさせなければならない。


「えっ・・・

もちろん陳宮様です。」

曹清は卞氏に強く言われた事に驚く。


「曹丕は陳宮の婚約者である貴女を凌辱しようとした罪で謹慎中だったのよ。

それを貴女が曹丕の下に通っていたら貴女の気持ちは陳宮では無く、強行した夏侯楙にあったのでは無いか、もしくは陳宮に不満があるのではと邪推されていたのよ。」

卞氏は聞こえて来ていた噂話の一端を曹清に話す。

しがない下女達の噂話であるが世間の評価としてひろがる話でもある。


「そんな事はありません!」

「そうね、私は貴女の優しい気持ちを知ってますからわかってますが、世間はどうでしょう?

曹丕が帰ってから2が月も陳宮に会って無かったというでは無いですか、私もてっきり陳宮を捨てたのかと思ってましたよ。」


「そんな事をしたりしません、私には陳宮様しか・・・」

「そうね、ならしっかりしなさい!

貴女が今問われているのは陳宮を裏切っていないことの証明です!」

「・・・はい。」

曹清は自分のしてきた事がことごとく陳宮を裏切る事だったのだと認識していく。


「陳宮が裏切らないようには曹操や曹彰が上手くやるはずです。

さすれば、一度ぐらい許昌に来ることもあるでしょう。

その時に私が陳宮を捕まえて話をします。

曹清はそれまで身を正して過ごしなさい。

いいですか、男の方と会うのは絶対にダメです。

相手が誰とかは関係ありません。

いいですね。」

「はい・・・」

曹清は項垂れながら自身の行いを振り返り罪悪感に包まれるのだった。

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