第279話 脱出
新野にもどった関羽は城内の混乱を目の当たりにする。
「これは篭城は無理だな。」
城門が吹き飛んだ城で篭城は出来ない、関羽は城に向かう。
「糜夫人、甘夫人、新野はこれまでにございます。これより脱出をはかります、私に付いてきてください。」
関羽は劉備の夫人である二人に声をかけ、産まれたての劉備の嫡男阿斗を連れて、新野から脱出しようとしていた。
「父上、この混乱で馬車が1台しか用意出来ません。」
関羽の長男である関平が脱出の準備をしていたのだが、城内の混乱は凄まじく、馬車の確保に失敗していた。
「1台あれば問題無い、糜夫人、甘夫人少々手狭ですが我慢してもらいたい。」
「は、はい・・・」
二人の夫人も状況はわかっている、反対する事は無いのだが・・・
糜夫人はチラリとこの場に来ていた関羽、張飛の家族を見る、馬車が無ければ夫人やまだ小さい子供は脱出も出来ないだろう、糜夫人はどうすることも出来ず、ただ心を痛める。
「武人の妻たる者の覚悟はさせております、さあ、お早く馬車へ。」
関羽は家族を一瞥すらしない。
「父上・・・」
だがまだ幼い関羽の娘、関銀屏は出ていこうとする父親にすがるような声を出す。
「関銀屏!この関羽の娘ならば情けない声を出すな!
武人たるこの父が娘にかまけて大義を忘れたなど天下に知らしめるつもりか!」
関羽の怒りと叱責が飛ぶ。
「父上、関銀屏はまだ子供、この関興が父上に代わり躾けておきます。」
関羽の子供、関興もまだ小さく馬に乗れない、ついていけない自分を歯痒く思いながらも武人の父を邪魔してはいけないと気丈にも見送ろうとしていた。
「よく言った、それでこそこの関羽の子である。
くれぐれも関羽の子として相応しい振る舞いをせよ。」
関羽は関興を褒めるがその言葉には辱めを受けるぐらいなら死を覚悟せよと伝えていた。
「関羽伯父上、父張飛に張苞は武人として勇ましく死したとお伝え下さい。」
張飛の子、張苞は手に槍を持ち最後まで戦う気概を見せていた。
「流石は張飛の息子だ、張飛にはよく伝えておこう。」
「はい!!」
関羽に褒められ嬉しそうにするが幼い子供が死にゆくのを止める事は無かった。
「よし、行くぞ!全軍私に続け!!」
関羽は関平と手勢千を率い馬車を守るようにして新野を後にする。
「さて、母上、覚悟はできていますね。」
「張苞、お父様に恥じぬよう戦い抜くのです、母は先に逝って見守っていますよ。」
「おさらばです!」
張苞は自分の母親を一太刀で斬る。
「きゃあぁぁぁ!」
関銀屏は思わず悲鳴が出る、今まで母のように優しくしてくれた張飛の妻、李敬が眼の前で斬られたのだ、しかも斬ったのは兄のように慕っていた張苞だ、嘘だと思いたい、だが眼の前で繰り広げられた光景は嘘では無かった。
「関銀屏、私達も先に逝きましょう、関興私達は敬の後を追います、関興は張苞と共に武勇を示しなさい。
武人の子として名に恥じぬ戦をするのです。」
関羽の妻である故金が息子である関興に戦うように告げる。
「母上はどうするのです?」
「私も武人関羽の妻です、敵に捕まり辱めを受けぬよう覚悟は出来ております、自ら手で死にゆくぐらい簡単です。」
「失礼しました、この関興、見事に戦い抜いて見せます!」
「頼みましたよ。」
張苞と関興は二人して迫りくる陳宮軍に向かう為に歩き始めるのだった・・・
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