第104話 拗れていく
宮殿で曹丕の看病に精を出す曹清の元に陳宮の出立を伝える者は誰もいなかった。
曹操自身、曹丕に対してどう接するか迷いがあり、あまり部屋に近づかない事も情報が入らない原因ではあった。
「曹丕、部屋に籠もり続けるのは身体に毒よ、少しはお外に出ましょう。
そうだ、今私のお屋敷を建てているのそれを見に行かない?」
「姉上、出ていくの?
そんなの駄目だ!」
曹丕は泣きそうな顔で曹清を見つめる。
現在曹丕が信じているのは母親と姉である曹清である。
母親には情けない姿を見せると叱責されるのはわかっている、弟達は家督を争う間柄であり、気を許してはいけないと心に刻まれているうえ、家臣達も信じれなくなった。
曹丕が縋りやすいのは優しい曹清だけだったのだ。
「すぐじゃないのよ、曹丕がもう少し落ちついたらの話だからね。」
「そんなの認めない!姉上見捨てないでください!」
幼児退行して縋り付く曹丕を引き離す事が出来ず、ズルズルと宮殿での生活を続けてしまっていた。
「先生!絶対勘違いをしてます!」
徐州に向う道中、一緒に付いてきてしまった曹彰がすっと熱弁を奮っている。
軍略とともに帝王学を学んでいる最中の曹彰からすれば、褒美を没収したような形になっている事を心配しているのだろう。
たしかにこの胸に空いた穴を埋める為に恨みに走るのかも知れない。
「若いうちの過ちはあるものだからね、大丈夫、こんな事で裏切るような真似はしないから。」
「違うんです!姉上がそんな事をするはずが無いんです!」
曹彰にしてみると曹清が陳宮の面会を断るなんて考えられない。
きっと誰かが邪魔をしているのだと。
曹彰の派閥は軍部に多い、自身が武芸が大好きでよく訓練所に行っていた事が原因なのだが、その反面宮殿内の味方は少ない、宮殿内は曹丕が抑えていたのだ。
曹彰は派閥争いを初めてうっとおしく感じていた。
「しかし、曹彰様付いてきて良かったのですか?」
俺は話を変えるために曹彰自身の話を始める。
「かまわない、父上も先生の所なら問題無いと言ってくれていた。」
曹丕が負傷した所なのに曹彰を俺に預けて軍に置く、その意味を考える。
曹家の次世代が戦に弱いなど国が荒れる元である、跡継ぎがどうなるかはわからないが曹丕が負傷した以上、曹彰は後継者に近づいたとも言えるだろう。
その子を預ける事で俺を裏切らさないようにし、曹清が離れた事による俺の不名誉を守り、手柄を上げれば曹家のチカラの回復を示せるか・・・
流石は曹操、この状況でも2手3手を考えているな。
俺はそこまで考え、一度深呼吸をする、
いかんな、まだ曹清様の事が頭に入っている。
俺は曹清が離れたと考えた自分が嫌になる。
曹清様に命を救われた身なのだ、離れたでは無い、あるべき所に戻られたと考えるべきなのだ。
俺は気持ちを切り替えようと努力していた。
「先生!先生聞いてますか!」
曹彰が声をかけるが陳宮から反応がない。
「曹彰、ああなった陳宮に声は届かん、自分の頭で何か考えこんでいるのだろう。」
張遼は騒ぐ曹彰の隣に来て、話しかける。
「ですが、きっと先生は勘違いなされて・・・」
「まあ、俺達もあの姫さんが陳宮から離れるとは思えんが、まあ今回の命令のタイミングを考えればな・・・」
張遼としては曹清が裏切るとは思っていないが曹丕が使い物にならないうえ、腹心の夏侯惇の息子がその原因となったとなれば、曹操配下に動揺が見られていた。
曹操の長女という肩書は重い物だろう。
さしずめ、次の戦で夏侯惇に手柄を立てさせ、その褒美として長男と結ばせ、互いにわだかまりが無いと見せる手か、その為に子供が出来ぬうちに陳宮の元から曹清を引き離したと考える事も出来る。
・・・本当にその手を使うなら俺達は舐められた物だな。
たしかに陳宮に野心は無いが俺達に怒りが無いかと言えば違う話となる。
その時は曹操に見るものを見せてやろう!
張遼が握る手綱に力が入るのであった。
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