第277話 新野

徐庶が劉備軍を抜けた事は諸葛亮の耳にも当然入る。

「何と言う事だ!関羽は何を考えている!

徐庶なら公私は置いて陳宮軍に対応するはずだ!」

新野を防衛するにあたり諸葛亮は様々な状況を想定して徐庶に策を授けていた、それは対陳宮軍ということもあり、状況に合わせた運用が必要な為に徐庶という諸葛亮が認める軍師の存在が必要不可欠であった。

徐庶がどれ程策を残したかは不明であり、関羽だけでは新野を守ることができない、諸葛亮は眼の前が暗くなる。


「諸葛亮よ、徐庶の気持ちを思えば致し方ない事だろう。

私は関羽の決断に間違いは無いと思っている。」

落ち込む諸葛亮に劉備は声をかける、現状戦果を上げていない諸葛亮を認めるのは劉備だけであり、その劉備が認める以上諸葛亮も多くは言えなくなる。

だが新たな戦略を考える必要がある。


「劉備様、新野を捨てる事は叶いますか?」

「新野を捨てるだと?」

「はい、関羽殿とはいえ兵数差もある陳宮軍を相手にするのは分が悪過ぎます、ならば新野を捨てこちらに合流してもらうのです。」

「だが、新野を捨てると劉表殿もいい気はすまい。」

「ええ、ただで新野を渡せばいい気はしないでしょう、ですが新野を罠として使い陳宮軍にダメージを与えるのです、そして、ここ江夏にて孫権を打ち破れば劉表殿とて多くは言いますまい。」


「だが、それだと我等の拠点を失う事になるぞ。」

「拠点については別途策がございます、一時的に失いますが新野以上の物を得ると約束いたします。」

「わかった、関羽にはこちらに来るように書状を書こう。」

「私も策を書きますのでなるべく早く届けてもらいたい。」

「わかった。」

劉備の命令書と諸葛亮の指示書はその日のうちに関羽に届けられる。


「劉兄は新野を捨てろとな。」

「はい、罠を仕掛けて陳宮軍を葬る予定にございます。」

「ふむ・・・」

使者として来ていた孫乾は関羽が新野を捨てる気になっていないと感じる。

「関羽殿、ここは諸葛亮殿の策の通りに致すべきかと。」

「孫乾、私は劉兄に城を任されている、戦に出たことも無いような書生に従う謂れはない。」

「関羽殿、劉備様の御命令でございます。」

「劉兄は騙されているのだ、本拠地を捨ててどうすると言うのだ、この地を開発し今後の足掛かりにすると言ったのは他でもない諸葛亮ではないか。」

「ですが・・・」

「くどい!将は一度命令を受けると主君の命とて従わぬ事がある、」

関羽は劉備の命令が諸葛亮の指示であることを感じ、機嫌が悪くなっていた。

諸葛亮が来て以来劉備は諸葛亮を側に置き、何をおいても諸葛亮の言う事ばかり気にしていた、張飛は普段から騒ぐのでわかりやすいが関羽自身も諸葛亮を良く思っていなかったのだ。


「関羽殿!」

「孫乾、劉兄に新野は必ずや防衛致すと伝えてくれ。」

関羽には頑固な所があり、一度決めるとテコでも動かない、孫乾は天を仰ぎ劉備の下に急ぎ戻るのだった。

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