第78話 勅使

俺の元に勅使が来る、非常に光栄な事ではあるのだが、このような事で来なければならない事を気の毒に思う。

「臣、陳宮、汝とその妻呂希の婚姻を破棄するものとする。

慎んで受けるように。」

「はっ!陛下の御心に従うまでにございます。」

この一言の為にどれほどの人に迷惑がかかったのだろう。

俺は申し訳無さで一杯であった。


その夜、使者である華歆を労う宴を開く。

「華歆殿、このような所までお越しいただき、申し訳無い。」

「いやいや、英雄たる陳宮殿と知己を得ることを考えれば、どうということはありませぬな。

まあ、使者としての内容は些か・・・」

「お気になさらず、勅使に頼るような事でも無いのに、陛下にまでご迷惑をおかけして申し訳無いばかりです。」

「陛下は喜ばれておりましたからご安心を。

曹操様に貸しを作れるなど中々ございませぬからな。」

華歆は坏を重ねながら裏事情を教えてくれる。


「あら、お父様も少しはいい事をしてくれますね。」

華歆に酒を注いでいた曹清がふと声を出す。

そのお父様という言葉に華歆の顔が固まる。

華歆は曹操に仕えて間もない、どうやら曹清の顔を知らなかったようだ。

今まで気にもせず酒を注いでくれていた相手が主君の娘などさぞかし心臓に悪いだろう。


「こ、これは失礼しました、まさか曹操様の御息女が私のような者に酒を注いでいただけるとは思ってもおらず!」

「いいのですよ、陳宮様が最高の労いをということでしたので。」

華歆は目を丸くして俺を見てくる。

「曹清様がお引き受けくださって有り難い限りです、こうして華歆殿を驚かす事に成功しましたから。」

実際俺は頼んでいないのだが、イタズラ娘の目で酒を注いでいたのであえて触れなかったのだ。


「陳宮様もどうぞ。」

「ありがとうございます。」

俺も杯を出し、曹清に注いでもらう。

曹清は俺の隣に来て寄り添うように坏に酒を注ぐ。

「曹清様、少し近くないですか?」

「陳宮様、いつもはもっとくっついているでは無いですか、華歆がいるとは言え、照れないで良いのですよ。」

「・・・いやぁ曹操様が離縁の話に積極的だったのがわかりました。

つまりそう言う事なのですな、陳宮殿も言ってくれればよろしいのに。」

「いや、待たれよ!華歆殿は何か勘違いを

・・・」

俺が誤解していそうな華歆に説明しようとするのだが。


ちゅ!


曹清が俺の頬にキスをしてくる。

「曹清!」

「あら、陳宮様、何かありましたか?」

「曹清、今淑女としてあるまじき事をしたでしょう!」

「何のことでしょう?それに初めてと言うわけでもありませんし。」

「いや、それは・・・」

俺が言葉に詰まる、それはしたことがあると肯定するようなものだった。


「あはは、仲睦まじくて何よりですな、このことは帝にも御報告させて貰いましょう、帝の御意志が二人を結びつけるに必要であったと聞けばさぞお喜びになられるでしょう!」

「あら、帝にまで祝福されるなんてどうしましょう。」

曹清は満更では無いような事を言うが、これ以上の醜態を伝えられる訳には行かない。


「皆!曹清様が御乱心だ、お部屋にお連れしろ!」

だが、誰も動かない。

「どうしたお前達!動けよ!」

「ふふ、皆さんは私の味方ですよ、陳宮様♪」

曹清はニコヤカに笑うが俺は味方がいないことに膝をつく。


「あはは、本当に仲がよろしいのですなぁ。」

「華歆殿、くれぐれもこのことを陛下には・・・」

「しかとお伝え致しましょう、先の戦の英傑と曹操様の御息女の仲、陛下もお楽しみになられるでしょう。」


俺に味方はいないのだった・・・

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