第88話 罠

俺が宴に着くと、うずくまる曹清の姿が見えた。

「曹清様!」

俺が駆け寄ろうとすると一人の男が前を阻む。

「陳宮、お前は何の立場でこの場に来ている、此処は曹操様のご家族の宴だ、早急にたちされ!」

俺を阻んだのは若くして近衛兵を纒める曹真だった。

「曹真!先生は僕の客だ!

それとも兄上の客は通せて、僕の先生は通せないとでも言うつもりか!」

俺が駆け出した事に緊急性を感じたのだろう、曹彰が即座に曹真に忠告する。

「そ、それは・・・」

「先生早く!急いでいるのでしょう!」

「ありがとうございます。曹彰様。」

俺は急いで曹清の元に駆けつける、其処には曹丕と美男子の若者が立っていた。


「陳宮!何の権利があって此処に来た!早急に立ち去れ!」

曹丕は威圧するように言うが具合の悪そうな曹清を置いて行くつもりは無い。

「曹清様、大丈夫ですか?」

「陳宮様♡」

「曹清様?」

曹清は俺は強く抱きしめられ、キスをされる。

「曹清様どうなさい・・・」

口を離さないようにキスをしてくる。

「陳宮様、身体が熱いのです、どうかお情けをくださいませ。」

曹清に余裕が無いことはわかった。


「待て!陳宮何処に行くつもりだ!」

「曹丕兄上はお下がりください、さもないと・・・」

曹彰は普段から腰に剣を履いている。

既に大人も顔負けの武芸を身に着けており、曹丕といえどもこの距離でかわせるものでは無い。

「曹彰血迷ったか!兄に剣を向ける気か!」

「動かねば斬りません。

さあ先生!姉上を!」


曹丕の事は曹彰に任せて、曹清に集中するのだが、既に息は荒く、我慢も限界のようだった。

「ここでは少し・・・別室に。」

「私の部屋がありますのでそちらに・・・」

俺は曹清を抱きかかえ、曹清の案内の元部屋にむかう、途中キスをしてくるのは身体の火照りからなのだそうだ。


俺と曹清が宴から去った後、曹彰は俺の代わりに曹丕に喰ってかかっていた。

「曹丕兄上!姉上に何をなさるつもりだったのですか!」

「曹彰には関係無い話だ。」

「関係あります!姉上は既に陳宮様の妻になったはず、それを・・・」

曹彰は曹丕のしようとしたことに気付いていた、まだ年若いとはいえ曹操の子である、女性をその気にさせる薬の存在は知っていた。

まさか、姉に使うなど思いもしなかったが・・・


「これは家臣を纒める為に、いや!姉上の為にもなることだったのだ。」

「姉上を罠にはめることが姉上の為とは思えません!」

言い争う二人に曹操が近付いてくる。

「二人共止めろ!」

「「父上!!」」


「まったく俺が来る前に騒ぎを起こしおって、話はだいたいわかったが・・・

曹丕、お前は暫く謹慎だ、夏侯楙は兵卒からやり直せ、ったく、主家に仇なすとは夏侯惇も嘆くだろうな。」

曹操は夏侯楙にというより、その父夏侯惇に気を遣っていた。

だが、娘の曹清に薬を盛り襲う計画に加担したのである、本来なら死罪に値するが夏侯惇を思えば踏ん切りがつかない。


「陳宮には悪い事をしているな・・・」

曹操は陳宮に引け目を感じつつ、娘に襲われているであろう陳宮に手を合わせる。


「陳宮、死ぬなよ・・・」

薬の強さを知る曹操から出た言葉であった・・・

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