第159話 引きこもりの曹丕

許昌に引きこもっている曹丕に対して、これまでの陳宮への失礼を考え、曹操から新たに教育係として鮑勛がつけられていた。


彼はかつて曹操の命を守るために奮戦して命を落とした忠義の家臣、鮑信の息子であり、若くして博識な上に権力に流されること無く苦言を呈する事の出来る男であった。


「曹丕様、あなたは何をしたのかわかっておられるのですか?」

「う、うるさい、私は姉上を助けたかっただけなんだ。」

「曹清様を助ける?何を巫山戯た事を仰るのですか、あなたがしたことは曹清様を追い込んだだけにございます。」

「何を言ってる!姉上があんなオッサンに嫁ぐのだぞ、許せる訳が無い!」

「それはあなたの感情です。

曹清様の望みをお聞きしましたか?」

「姉上とて夏侯充と話している時は楽しそうだった。」

「たしかに話している時は楽しかったのかも知れませんな。」

「そうだろ!」

「ですが、そのせいで不名誉な噂を流され、今お苦しみになられております。

それもこれもあなたが曹清様を巻き込んだ為に起きた事にございます。」

「そんなことはない!私は姉上に幸せになってもらいたいだけだ!」

「その結果、苦しめているだけだと何故気付けない!」

鮑勛は曹丕に忖度することなく厳しく接する。


「ひいぃぃ!!」

「あなたは曹操様の子息にございます、それが部屋に引きこもるだけでなく、姉を裏切り、功臣を辱めるような真似をして恥ずかしいとは思わないのですか!」

「ひ、引きこもりたい訳じゃない・・・だが、このような姿で外になど・・・恥ずかしいではないか。」

曹丕は以前捕虜になった際、額につけられた焼印を恥じていた、その為に外に出ようとはしないのだが・・・


「人は見た目のみにあらず!

恥ずべきは今のその生き方です!」


「言うに事欠いて私の生き方が恥ずかしいだと。」

「恥ずかしいですな!姉を陥れ、その幸せを奪い、見た目を気にして外にも出れない、恥ずかしい以外に何がありましょう!」

「貴様!」

曹丕は部屋に置いてある剣を抜く。

鮑勛は落ち着いた様子で扉を開き、外に出る。


「さあ、向かって来てください、私はここにいますよ。」

「くっ・・・」

「なんですかあなたの怒りはその程度ですか?

それなら曹家の恥晒しと呼ばれても致し方ありませぬな。」

「だ、誰が恥晒しだ!訂正しろ!」

「訂正?なぜ?外に出ることも出来ない腰抜け相手に恥晒しと言って何が悪い!」

「貴様!」

曹丕は怒りに任せて勢いで外に出る。


そして、鮑勛に斬りかかるのだが、鮑勛も来るとわかっている剣に斬られる積もりなどない。

曹丕を簡単にかわす。


「外に出れるじゃないですか。」

「えっ、あ・・・」

「あなたが外に出れなかったのはただの甘えです。」

鮑勛は用意していた額当てを渡す。

「額が見られたくないなら、額だけを隠せば良いのです。

姿まで隠すなど臆病者でしかありませぬ。」

「・・・外に出れた事は感謝する。

だが、私に対しての言、私は生涯忘れぬぞ。」

「構いませぬ、私が間違っていると思われるなら、あなたはそれだけの器ということになります。」

「くっ・・・

目障りだ!さっさと何処かへ行け!」

「いえ、私はあなたの教育係となりましたからな、これからは厳しく指導していきましょう。」

「なっ!そんなの認めん!」

「認めるも認めないも曹操様の命令にございます。」

鮑勛が告げる言葉に曹丕は心底嫌そうな表情を浮かべるのであった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る