第99話 捕虜

「状況はわかったが・・・」

本隊が降伏した以上、俺達の兵力ではひっくり返す事は不可能だ。

「張遼、引き上げるぞ。」

「いいのか?」

「これ以上の戦いは意味が無い、あとは捕虜を使って交渉するのみだ、だが交渉するにも俺達の数が少なすぎる、奪回される前に引き上げる。」

「陳宮、なんとか曹丕を助ける事はできそうか?」

「多分としか言えません、ですが袁紹は袁尚の事を非常に大事にしていると聞きます。

見捨てるような真似はしないでしょう。」

「すまない陳宮。」

「気にするな曹洪、お前は暫し休め、あとはなんとかする。

全軍出立!」

俺達は足早に引き上げて行くのだった。


袁紹は捕虜となった曹丕を目の前に連れてこさせていた。

「お前が曹操の息子か。」

「そ、そうだ、わかったなら早く解放しろ!」

曹丕は震えながらも気丈に振る舞おうとしていた。

「勇ましい事だ。だがお前を解放することは無い。

お前には先の戦の英霊を慰める為の生贄になってもらおう。」

「い、いけにえ・・・」

曹丕の表情は真っ青になっていた。


「くく、いい表情だ、曹操にも見せてやりたい所だ・・・」

袁紹は先の敗戦の悔しさもあり、どこか曹操の面影がある曹丕が苦しむ姿に優越感を得ていた。


「申し上げます!」

「なんだ!」

「袁尚様が敵に捕まったご様子にございます。」

「なんだと!!」

袁紹にとって袁尚は一番可愛がっている息子である。

それが捕まったなど信じたくない、先程までの優越感は一気に吹き飛び顔面蒼白になる。


「生き残った兵によると袁尚様は敵軍を追撃していた所、突如現れた陳宮の軍勢に卑怯にも奇襲を喰らい、奮戦虚しく、捕虜になったご様子にございます。」 

「なんということだ・・・」

「袁紹様、捕虜にしたという事は殺すつもりは無いのだと思います、さしずめ曹丕どの人質交換を行うつもりかと。」

沮授は袁紹に進言する。

「そんなことはわかっておる!

沮授、何故袁尚が追撃するのを止めなかったのだ!」

「申し訳ありません、深追いは禁止しておりましたのですが、名だたる将を討つ機会を奪うなと袁尚様がおっしゃられ・・・」

「貴様!袁尚が悪いと言うつもりか!」

「いえ、事実を述べただけに・・・」

「うるさい!お前が止めておればこのような事にはなっておらんのだ!

ああ、袁尚、捕虜になるなど、今頃どのような苦しい思いをさせられているのやら・・・」

袁紹の瞳には大粒の涙が浮かんでいる。


「さすれば、曹操に使者を出しましょう。」

「わかっておる、郭図使者として曹操の元に迎え!」

「はっ!かしこまりました。」

「面白くないわ!曹丕を牢に入れておけ、ただし命は奪うな!」

袁紹は苦々しい思いを抱え、自室へと戻っていくのだった・・・

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