第296話 ゴブリン襲来

「……ウル、お手」

「ウォンッ(ネココの頭の上に手を置く)」

「……スラミン、お耳」

「ぷるんっ(←頭に生えている触手を伸ばす)」

「何してるのネココ?」



ネココは屋敷の庭にてスラミンとウルと戯れており、その様子を見てレノは彼女に近付く。ネココはレノが来るのを確認すると、スラミンとウルを引き剥がしてアルトの様子を尋ねた。



「アルトはどうだった?他の学者と喧嘩してなかった?」

「割と仲良さそうだったよ。それより、箱の中身なんだけど……」



レノはネココに箱の中身が収納石であった事、合言葉が分からない以上は収納石に収められた代物は取り出せない事を告げる。収納石が保管されていたという内容にネココは腕を組み、誰が何の目的で金属製の箱に収納石を保管していたのか気になった。



「……あの黒い箱は蓋の部分が溶接していた。つまり、誰も簡単に開けないように細工されていた。という事は収納石を保管した人間は簡単には中身を奪われないようにしてたとしか思えない」

「その箱をゴブリンが探していた……何か気になるね」

「気になるのはそれだけじゃない、そもそも今回の一件がゴブリンキングが誕生したのが原因だと皆は思ってる。だけど、私は他にも原因があると思う……只の勘だけど」



ネココの言葉にレノは彼女に視線を向け、何か証拠があるわけでもないがネココは今回のゴブリンの騒動の原因が「ゴブリンキング」だけではないと彼女の勘が告げていた。レノもネココの言葉に同感であり、今回の一件は何か違和感を感じた。


そもそもどうして魔物であるゴブリン達が収納石が保管されていた金属製の箱を探しているのかレノ達は気になった。あれほど大量のゴブリンがレノ達が発見した箱を探しているのは違和感を拭えず、どうしてゴブリンが収納石を求めていたのか、その理由が判明すれば今回のゴブリンの騒動の原因が掴める気がしてならない。



「……レノ、あの収納石の中身が何か調べる必要がある」

「でも、合言葉が分からなければ収納石の中身は……」

「それなら壊してしまえばいい。壊せば収納石の中身も飛び出すはず」



収納石は内部に闇属性の魔力を蓄積しており、この闇属性の魔力を利用して異空間に繋がる出入口を作り出し、その中に物体を収める仕組みである。だが、収納石その物を破壊すれば内部で蓄積されている闇属性の魔力は解放され、異空間に封じられていた物体も飛び出すはずだった。



「収納石を破壊すれば中身が確認できる。それなら私達の手で壊せばいい」

「壊せと言っても、収納石はかなり頑丈だと言ってたけど……」

「レノやドリスの魔法剣でも壊せないぐらいに硬いの?」

「それは……試した事がないから分からないけど」

「なら、試せばいい……こうしている間にもゴブリンに襲われている人がいるかもしれない」



ネココの言葉にレノは考え込み、確かに彼女の言葉には一理ある。現状では収納石をいくら調べたところで合言葉がなければ中身は確認できず、それならば収納石を破壊して中身を確認するのも一つの手である。



「分かった。なら、アルトの所に戻ろう。その前にドリスさんを探さないと……何だ!?」

「あれは……煙?」

「ウォンッ!?」

「ぷるんっ?」



レノとネココが行動する前に突如として街の南側の方で煙が上がり、その様子を見たレノ達は驚く。煙の数はどんどんと増えて良き、嫌な予感を覚えたレノとネココは互いに顔を見合わせると、頷いて確認に向かう――







――時刻は少し前に遡り、南門の方には派遣させていた冒険者と傭兵が帰還し、街に戻ってきていた。彼等は疲れた表情を浮かべて街の中へ戻り、全員が戻るのを確認すると城門が閉じられようとした。



「よし、今日の避難活動はここまでだな……城門を閉めるぞ!!」

「ちょっと待て!!まだ誰か来るぞ!?」



城門が閉じられようとした時、城壁の上に立っていた兵士が大声を出す。その声に地上の兵士達は視線を向けると、そこには複数の馬車が近付く姿が見えた。



「何だあれは?避難民か?」

「旅人じゃないか?」

「商団……にしては馬車の数が少ないな」



3つの馬車が街に近付いてくる光景に兵士達は警戒心を抱き、逃げ遅れた村人が戻ってきたのかと思われたが、ここで城壁の兵士が驚いた声を上げる。



「ま、まずいぞ!!あの馬車の後方からゴブリンの集団が見える、どうやら襲われている様子だぞ!!」

「何だと!?」

「くそっ、こんな時にっ……!!」



馬車の後方には10匹近くのゴブリンが追いかけており、馬車は全速力で街の城門へ向けて移動していた。どうやらゴブリンから襲われて逃げてきたらしく、兵士達は見殺しにする事が出来ずに迎撃の準備を迎える。


城門の前には数十人の兵士が待機しており、ゴブリンが10匹程度ならば相手にもならなかった。彼等は急いで馬車を救い出すために行動を開始しようとしたが、ここで地上側の兵士が疑問を抱く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る