第116話 チェンとの決着
「チェン、もうお前は終わりだ!!」
「来たか……調子に乗るなよ、ガキがっ!!」
チェンは右腕の剣を既に引き抜き、小瓶を取り出すと傷口に緑色の液体を注ぎ込む。すると傷口から急速的に閉じていくと、何事もなかったように腕は元通りに戻る。その調子で彼は短剣が突き刺さった傷も治すと、余裕を取り戻したようにレノに醜悪な笑みを浮かべる。
回復薬で怪我を治療したチェンに対してレノは敢えて黙って見ていると、取り戻した荒正を抜き放ち、刀身に風の魔力を送り込む。お互いに万全な体勢を整えると、先に仕掛けたのはチェンの方だった。
「喰らえっ!!」
右腕に巻き付けた黒鎖をチェンは放つと、鎖は地面を這いずる蛇のような動きでレノの元へと迫る。その様子を見てレノは荒正を振りかざし、風の刃を放つ。
「嵐刃!!」
鎖を操るチェンの元に風の刃を放つと、チェンは迫りくる嵐刃に対して舌打ちしながらも数歩ほど動いて攻撃を躱す。その間にも鎖を伝わらせ、レノの元へと接近させる。
「絡みつけ!!」
「させるかっ!!」
自分に向けて飛び込んできた鎖に対してレノは荒正を振り払い、敢えて刃に巻き付かせる。それを目にしたチェンは鎖を引き寄せよて武器を奪い取ろうとしたが、ここで荒正の刃に炎が宿った。
鎖に絡みついた状態でレノは魔法腕輪の火属性の魔力を送り込み、火炎剣を発動させた。鎖を熱した状態でレノは荒正を振りかざし、鎖を破壊するために叩き込む。
「だああっ!!」
「うおっ!?」
建物の屋上の床に目掛けて鎖が絡まった状態でレノは荒正を叩きつけ、破壊を試みる。しかし、魔剣と同様に黒鎖も魔法に対して強い耐性を所有しているのか壊れる様子はなく、それどころか徐々に刃に鎖が絡みつく。
「無駄だ、お前みたいなガキの力で黒鎖が壊れると思っているのか!?」
「くぅっ!?」
チェンは両手で鎖を掴むとレノの荒正を奪い取ろうとするが、それに対してレノも柄を握りしめてどうにか奪われまいと耐える。しかし、単純な腕力はチェンの方が勝り、徐々に彼の身体ごと引き寄せられる。
このままではまずいと判断したレノはどうにか黒鎖を外す方法を考え、刀身に視線を向ける。一か八か、風の魔石から魔力を引き出して「嵐突き」を発動させ、竜巻の力で鎖を引き剥がそうかと考えた時、ここでレノは黒鎖に視線を向けた。
(もしかしたら……よしっ!!)
レノは荒正の刃に纏わせていた魔力を送り込むのを止めると、刀身に纏っていた火炎が消失した。その様子を見てチェンは驚くが、彼の魔法剣の効果が切れたのかと判断して笑い声を上げる。
「どうした!?炎が消えちまったぞ、魔力切れか!?」
「……図に乗るな!!」
チェンの言葉に対してレノは刃に絡みついた黒鎖を掴み取ると、意識を集中させて魔力を送り込む。その結果、鎖にレノの風の魔力が送り込まれてチェンの元にまで到達する。彼は驚いた表情を浮かべ、右腕から鎖が徐々に外れかけていく。
――レノが行ったのは黒鎖に付与魔術を施し、彼から黒鎖を奪い取ろうとする。蛇剣と同様に黒鎖も使用者の意思に従っているとした場合、レノは黒鎖に魔力を送り込んで黒鎖の操作をチェンから奪えるのではないかと考えた。
結果的には黒鎖に風の魔力を送り込み、その結果としてチェンは鎖を抑えきれずに右腕を弾き飛ばされて床に倒れ込む。そして自分の手元から離れた黒鎖がレノの元へと移動し、彼の右腕に巻き付く光景を見て唖然とした。
「ば、馬鹿な……そんな、馬鹿なっ!?」
「ふうっ……これでお前たはただのチェンだな」
「嘘だ、こんなはずが起きるはずがない!!返せ、俺の鎖を返せっ!!」
二つ名の由来でもあった黒鎖を奪われたチェンは動揺し、信じられない表情を浮かべて自分の右腕に視線を向ける。何年も使い続けてきた愛用の武器が奪われたという事実に彼は信じられず、必死に取り返そうとレノの元へ駆け込む。
そんな彼の姿にレノは若干哀れに思ったが、チェンのこれまでの行動を思い返せば同情の余地はなく、黙って荒正の刃を屋上の床に突き刺す。そして接近してきたチェンに対して今度こそ止めの一撃を食らわせる。
「返せぇえええっ!!」
「――地裂!!」
ある程度にまでチェンが接近すると、レノは刃を下から勢いよく繰り出し、近づいてきたチェンの肉体を吹き飛ばす。チェンは白目を剥きながら床へ倒れ込み、その身体には大きな痣が出来上がっていた。
敢えて刃で切り裂かず、風の魔力のみで吹き飛ばしたチェンに対してレノは見下ろすと、やがて階段の方からマントを纏わせたドリスを肩で支えたアルトと、地上から追いついてきたのかネココが姿を現す。3人は倒れているチェンとそれを見下ろすレノを見て驚き、すぐに彼が勝利した事を確信して笑顔を浮かべた。
「レノ!!」
「レノ君!!」
「レノさん……勝ったのですね?」
「皆……ああ、勝ったよ」
『チュチュウッ!!』
レノは3人に振り返ると右腕に巻き付いた黒鎖を見せつけて勝利した事を報告すると、地上の方から大量の鼠達の勝利の雄たけびが上がった――
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