第115話 予想外の援軍

「ぐぎゃあぁあああっ!?」

「アルト、短剣を!!」

「えっ!?あ、ああっ……ほらっ!!」



剣が突き刺さったチェンは悲鳴を上げ、その場で腕を抑えて膝を突く。その様子を見てレノはアルトに声をかけると、彼が持っていた短剣を投げ渡して貰い、隙を見せたチェンの元へ向かう。


右腕に剣が突き刺さったチェンは黒鎖を上手く操る事が出来ず、接近してくるレノを見て怒りを抱き、同時に恐怖した。咄嗟に彼はドリスを掴み上げ、彼女を盾にする。



「く、来るな!!これ以上に近付けばこの女の命はないぞ!!」

「きゃっ!?」

「うおおおおっ!!」



ドリスを抱き寄せたチェンに対してレノは止まる事はなく、短剣に風の魔力を送り込む。何の躊躇もなく接近してくるレノを見てチェンは焦ったが、レノは短剣をチェンに向けて投げ放つ。



「喰らえっ!!」

「ひぃっ……うおおおっ!!」



正面から投げ放たれた短剣を見てチェンは恐怖のあまりに右腕を無理やりに動かし、身に付けていた黒鎖を振り回す。まるで扇風機のように鎖を振り回して放たれた短剣を防ごうとするが、それに対してレノは短剣の軌道を変化させる。



(避けろ!!)



魔弓術と同様にレノの付与魔術によって風の魔力を宿した物体はある程度の物なら自由に操作は出来る。鎖に弾かれないように短剣の軌道を変化させると、チェンの足元に短剣は突き刺さった。



「うがぁっ!?」

「ドリス、頭を下げろ!!」

「は、はい!!」



足に激痛が走ったチェンは悲鳴を上げ、そんな彼に向けてレノは拳を握りしめる。そしてドリスに頭を下げらせると、彼女の頭上を通り越して拳を突き出す。



「離れろ、くそ野郎!!」

「がふぅっ!?」



レノの拳がチェンの顔面を捉え、右頬を殴りつける。足元に短剣が刺さって上手く踏ん張れないチェンは殴られた拍子にドリスを手放すと、そのまま彼に目掛けてレノは左手を握りしめ、止めの一撃を食らわせようとした。


左拳に風の魔力を纏わせ、竜巻の如き魔力の渦を纏わせながらチェンへと振りかざす。このままチェンに叩き込めば勝利は確実だったが、ここで予想外の事態が発生した。突如として建物の外から聞きなれた狼の咆哮が響く。




――ウォオオオンッ!!




外から聞こえてきた咆哮にレノは驚き、アルトも聞き覚えがある鳴き声だったために二人は窓に振り返ると、そこにはウルが建物の前に群がる盗賊に襲い掛かる姿が存在した。彼の背中にはネココも存在し、その後ろにはスラミンも縋りついていた。



「レノ、助けに来た!!待ってて……!!」

「ガアアッ!!」

「ぷるるんっ!!」

「あいでぇっ!?」

「な、何だこいつら!?」



ウルからネココは飛び降りると盗賊達に対して蛇剣を振りかざし、刃を鞭のようにしならせて斬り付ける。一方でウルは前脚で盗賊達を突き飛ばし、スラミンも負けずに上空に跳ね上がると盗賊達に目掛けて頭上から圧し掛かる。


ネココが無事であった事、そしてウルとスラミンまでも着た事にレノは驚き、更に援軍は彼女達だけではなかった。大量の鼠があちこちから出現し、遠くの建物の天井からネズミ婆さんの声が響く。



「お前達、やっちまいな!!」

『チュイイイイッ!!』

「ひいいっ!?」

「な、何だぁっ!?」

「鼠ぃいいいっ!?」



大量の鼠の大群が迫りくる光景に盗賊達は悲鳴を上げ、その場で逃げ惑う。1匹1匹の力は弱くとも団結すれば大きな力を発揮し、数の暴力で人間たちを圧倒する。戦況は一変し、建物の外の盗賊達は散り散りになって逃げだしてしまう。



「ネココ、無事だったのか……」

「ど、退け!!」

「うわっ!?」

「きゃうっ!?」



外の様子にレノが気を取られている間、チェンは彼にドリスを突き飛ばすと、二人は重なり合う形で床に倒れ込む。その隙にチェンは右腕を抑えながらも部屋の奥へと移動し、玉座のような椅子の後ろに隠し扉があったらしく、姿を消す。



「くっ……ドリス、無事?」

「え、ええ……平気ですわ。それと、あまり見ないでください。は、恥ずかしいですわ」

「あ、ごめん……」



レノは自分を押し倒す形で倒れ込んだドリスに声をかけると、彼女は下着姿で男性を押し倒したという事実に赤面し、恥ずかしそうに顔を逸らす。押し倒された時に彼女の大きな胸が押し付けられてレノも照れるが、今は一刻も早くチェンを追いかける方が先だった。


ドリスはアルトに任せてレノはチェンが手放した装備を全て回収し、彼との決着を付けるために隠し扉を潜り抜ける。そして扉を抜けた先には上に続く階段が存在し、どうやら建物の屋上に繋がっているらしい。



「二人はここで待ってて!!俺はチェンを捕まえる!!」

「き、気を付けるんだぞ!!」

「レノさん、油断しないで……」

「分かってる、大丈夫だよ」



二人の言葉にレノは頷き、チェンの後を追って階段を上る。そして階段を上がり切ると屋上に繋がる扉を発見し、押し開く。案の定というべきか、そこには待ち構えているチェンの姿が存在した。

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