第114話 投擲剣

「剣、腕輪、指輪……どれもこれも一級品だが、肝心のこの魔弓に関しては使い方が分からねえ。おい、これはどうやって使うんだ?俺の所の誰が試し撃ちをしてもお前のように矢は曲がらなかった」

「…………」

「ふっ、それでも盗賊なのかい?盗賊なら魔道具の勝ちの重要性を良く知っているだろう?それなのに種類も使い方も分からないとは笑わせてくれるね」

「ガキが……舐めた口を叩くな!!」



黙り込むレノに対してアルトは彼の代わりに挑発するように話しかけると、チェンは腕を振り払って巻き付いていた鎖を放つ。横薙ぎに振り払われた鎖に対して咄嗟にレノはアルトの頭を掴んで身体を屈めると、二人の頭上に鎖は通り過ぎた。


右腕に巻き付けた鎖をチェンは自由自在に操り、これが彼の実力なのか、あるいは鎖型の魔道具である「黒鎖」の能力なのかは不明だが、まるで鞭のようにチェンは二人に目掛けて振り下ろす。



「ふんっ!!」

「アルト、避けて!!」

「うわわっ!?」



レノはアルトを突き飛ばすと、二人の間に鎖は叩きつけられ、瞬時にチェンの元へと戻ってくると彼の右腕に巻き付く。射程距離は長く、しかも鎖という性質上は剣で受けようとすれば逆に武器を絡めとられて奪われる心配もある。



「嵐刃……!!」

「おっと、そこまでだ!!」

「あうっ!?」



魔法剣で攻撃を行おうとしたレノに対してチェンは鎖を放ち、縛り付けられているドリスを引き寄せて自分の元へと移動させる。その様子を見てレノは攻撃を中断し、流石にドリスが密着した状態では攻撃は出来なかった。



「この女の命が惜しければこいつの使い方を教えろ!!そうすれば命だけは助けてやる!!」

「くぅっ……!?」

「ドリス!!」

「卑怯者め……うわっ!?」

「てめえは黙ってろ!!次に余計な口を利いたらてめえから殺すぞ!?」



アルトの言葉にチェンは黒鎖を放ち、彼の目の前に鎖を叩きつける。その様子を見てレノはどうするべきか悩み、人質を取られている以上は迂闊には動けない。


ドリスさえ人質にされていなければ戦えるのだが、チェンの操る黒鎖は非常に厄介だった。あの鎖のせいで近づく事すらもままならず、しかも避ける以外に攻撃手段がない。先日に戦ったヤンの蛇剣も厄介ではあったが、チェンの黒鎖の場合はそれ以上に戦いにくい武器だった。



(くそ、どうすればいい……!?)



チェンが魔弓と勘違いしている自分の弓の秘密を話しても納得するはずがなく、仮に本当の事を話してもチェンが信じなければドリスの身が危ない。時間が経過すれば他の盗賊達が押し寄せる可能性もあるため、どうするべきかとレノは考えているとここでアルトは答える。



「待ってくれ!!その魔弓の事なら僕が詳しい!!」

「何だと!?」

「僕の事は知っているか?サンノの街の学者といえば名前ぐらいは聞いた事があるだろう!!僕は魔道具の研究家でもあるんだ!!」

「サンノの学者だと……」



アルトの言葉にチェンは心当たりがあるのか、彼はアルトに視線を向けて考え込む。アルトの噂は他の街にも行き届いているらしく、確かに学者である彼ならばレノの魔弓の事を知っていてもおかしくはないと考えたチェンはレノの代わりに答えるように促す。



「よし、いいだろう。さあ、答えろ!!こいつはどうやって使うんだ?」

「そ、それは……を、すれば……だ!!」

「ああっ!?聞こえねえんだよ!!もっとしっかりと喋れ!!」



少々わざとらしいがアルトは小声でぶつぶつと呟き、その反応にチェンは苛立ちを抱く。一方でレノはアルトが何を考えているのかと戸惑うが、ここで彼が自分を囮にしてチェンの注意を引いている事を知る。


敢えて自分の正体を晒してチェンの興味を引く事でアルトはレノに反撃の好機を与え、その彼の想いに答えるためにレノは考える。そして何か使えそうな物はないのかと考えると、ここでレノは窓の外に視線を向けた。



(窓が開いている……そうだ、これなら!!)



良い方法を思いついたレノは窓に目掛けて剣を振りかざし、勢いよく投擲を行う。そのレノの行為に広間に存在した者達は驚き、すぐに武器を失ったレノはチェンの元へと向かう。



「うおおおっ!!」

「なっ!?馬鹿が、何を考えていやがる!!」

「レノさん!?」

「それは無謀だぞ!!」



武器を窓に投げ捨てて何も身に付けずにチェンの元に特攻するレノの姿を見て、ドリスとアルトは止めるように言葉を掛けるが、既にチェンは右腕を伸ばす。


腕に巻き付いていた黒鎖が放たれ、正面から突っ込んできたレノの両足に絡みつき、そのまま地面に倒れ込ませる。その様子を見てチェンは安堵したが、直後に彼は嫌な予感を浮かべて窓の外に視線を向けると、そこには先ほど投げ込まれたはずの剣が迫りくる光景が映し出された。



「いっけぇえええっ!!」

「なぁっ!?」



先ほど投げた剣には風の魔力を纏わせており、魔弓術の要領でレノは窓に投げ飛ばした剣を引き寄せると、再び窓を潜り抜けてチェンの元へと向かう。鎖をレノに巻き付けたチェンは鎖を操る事が出来ず、慌てて鎖を巻きつけた腕で防ごうとした。


しかし、レノに向けて鎖を伸ばしていただけに腕に鎖が巻き付いていない箇所が露出し、その部分に目掛けて剣は突き刺さる。腕に剣が貫通したチェンは悲鳴を上げ、ドリスを手放す。

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