第113話 水の刃
罅割れた天井に視線を向け、レノは吸水石を放り投げると、刀身に風の魔力を纏わせる。その状態でレノは剣を振りかざすと、勢いよく下から振りかざして空中に浮きあがった吸水石に叩きつけた。
この時にレノは刃が吸水石に触れた直後、風の魔力を放出させて「嵐刃」を生み出す。その結果、吸水石は割れた瞬間に内部に蓄積されていた水が風の刃に飲み込まれる形となり、やがて「水の刃」と化して天井へと叩き込まれる。
「うおりゃあっ!!」
「うわっ!?」
魔石に含まれた水を風圧によって天井へと吹き飛ばすと、亀裂が生じた天井へと叩き込まれる。その結果、天井の亀裂が広がると一気に崩落し、大量の瓦礫が階段の下に落ちていく。
――うわぁあああっ!?
下の階まで迫っていた盗賊達の悲鳴が響き、天井から崩落した瓦礫によって階段は塞がれてしまう。それを確認したレノはすぐにその場を離れ、3階の廊下を駆け抜ける。
「行こう、アルト!!」
「あ、ああ……!!」
アルトは崩壊した天井と瓦礫で塞がれた階段を見て冷や汗を流し、先ほどレノが何をしたのかを冷静に分析する。恐らくだがレノは風の斬撃だけでは天井を破壊する事は出来ないと悟り、アルトが所有していた「吸水石」を利用してより強力な攻撃を繰り出そうと考えた。
レノが行ったのは嵐刃に吸水石に蓄積されていた水を取り込ませ、水を勢いよく発射させる。ただの吸水石に入っていたのがただの水とはいえ、風の魔力を利用して凄まじい勢いで打ち上げれば天井を破壊できると直感で気づいたのだ。
まるで高所から叩き込まれる滝が逆流して天井に叩きつけられたような威力を誇り、実体を持たない風の刃ではわずかな罅割れしか与えられなかった天井が、水を取り込んだ事で威力を上昇した水の刃によって破壊された。もしかしたら単純な破壊力ならばレナの火炎刃を上回る一撃だったのかもしれない。
「アルト、急いで!!この階にきっとあいつはいる!!」
「あ、ああ……分かってる!!」
アルトはレノの言葉を聞いて現実に引き戻され、どうも考え事をする他の事に目が回らなくなるのが彼の弱点だった。階段を一つ破壊したとしても他の階段から盗賊達が駆けつけてくるはずであり、考えている暇などない。
「ん!?あれは……」
「どうした!?何か見つけたのかい!?」
「……あの扉が怪しい!!」
レノはこれまでの部屋の中でも最も大きな扉を発見すると、そこへ目掛けて嵐刃を放つ。扉を強制的に吹き飛ばし、中へと入り庫むと広間だと判明する。そして広間の奥には玉座の形を模した大理石製の椅子に座り込むチェンの姿と、彼の傍で下着姿で縄で拘束されたドリスの姿が存在した。
「ドリス!!」
「あ、うっ……れ、レノ、さん?」
「……なんてひどい事を」
「来たか……これで命拾いしたぜ」
チェンは縄でつないだをドリス引き寄せると、駆けつけてきたレノとアルトを見て笑みを浮かべる。特にレノを見て彼はこれでカトレアに殺される心配はなくなると安心する一方、アルトの姿を見て訝しむ。
「お前等……どうやって抜け出した?それにそのローブ……倉庫からかっぱらってきたな?」
「何がかっぱらうだ!!このローブは元々は俺の物だし、それに他に奪われた物も返してもらうぞ!!もちろん、ドリスもだ!!」
「レノさん、逃げてください……私に構わずに早く……あうっ!?」
「うるせえぞ、アマがっ!!」
「止めろっ!!」
ドリスの言葉にチェンは余計なことをレノ達に吹き込む前に彼女を地面へ叩きつけ、その様子を見ていたレノは怒りのあまりに魔法拳を発動させようとした。しかし、そんな彼に対してチェンは右腕に巻き付けていた黒鎖を構える。
問答無用でレノはチェンに向けて「嵐刃」を放つが、その攻撃に対してチェンは鎖を巻きつけた右腕で受け止め、掻き消す。その光景を見てアルトは驚き、レノは舌打ちする。
「おっと……今のは危なかったな、少し腕が痺れたぜ」
「ば、馬鹿な……レノ君の攻撃を振り払うだけで掻き消すなんて」
「こいつは見た目通りに黒鎖という名前の魔道具でな、魔法に対する耐性は魔剣級だ。そんなちゃちな魔法剣で壊せるような代物じゃないんだよ」
「だったら直接ぶった切ってやる!!」
「おっと、いいのか?俺の手札はこの女だけじゃないぞ?」
今すぐにでも切りかかりそうな勢いのレノに対してチェンは自分が座っていた椅子の傍に立てかけて置いたレノの「荒正」を見せつける。更に彼は懐に手を伸ばすとレノの魔法腕輪と指輪を取り出し、極めつけには椅子の裏側に隠していた弓を取り出す。
どうやらレノの装備品は全てチェンが所持していたらしく、彼はこれ見よがしに鞘から剣を抜いてレノに見せつける。その挑発行為にレノは無言で見つめ、そんな彼の態度がつまらないのかあっさりとチェンは手にしていた剣を戻して今度は弓を見せつけた。
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